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連載・特集

緑地帯 梟の眼と愛 出原均 <7>

 「画廊梟(ふくろう)」からのダイレクトメール(DM)の中には、数は多くはないが、謝恩セールや低価格の作品展の案内がある。志條みよ子さんは、絵を買ってもらう取り組みをいろいろ試みていた。

 DMには買うことを勧める文章も。購入の勧めは、画廊主だから当然といえば当然だが、通常はわざわざDMに書くことはしないのではないか。志條さんには買うことについてしっかりした考えがあったのだ。

 次のような志條さんの文章がある。「みずからの美心を、みずからが買う、間接的自己表現なのである」(随筆「のこりぎれ」)。あるいは、「絵を買うということも実はその歓喜の獲得の表現であり一種の芸術活動なのです」(「競作十人展」DM)。

 既に述べたように、志條さんは骨董(こっとう)の目利き、青山二郎と親交があった。青山は、ものを買うことで自身の審美眼を鍛えた人である。まさに買うことが創造であり得たのだ。そこまででなくとも、身銭を切って絵を買うとなると誰もが真剣になるだろう。美は感性的なものとされるけれど、実際は、私たちは権威や規範に頼りがちである。買うことは自分で判断するよい機会であり、その過程で自分のセンスや考えを高めるのだ。購買の勧めには、こうした来館者への期待があったと思われる。

 もちろん、多くの画廊主もそうした考えを多かれ少なかれ持っていた(いる)だろう。ただ、志條さんは青山二郎を間近に見て、その思いをより強くしたのではないか。経営の大変な商業画廊を営んだ理由が少し見えるようだ。(兵庫県立美術館学芸員=神戸市)

(2018年4月26日朝刊掲載)

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