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連載・特集

緑地帯 金子兜太の周りで 石川まゆみ <1>

 2月20日夕刻、金子兜太(とうた)先生が危ないとの連絡が入り、翌朝に訃報を聞いた。98歳。100歳までは、と信じていた。

 私は、兜太先生の俳誌「海程」に20年来、投句している。訃報を聞いてすぐ、先生のニコニコした顔が浮かんだ。私は1月、初の句集を出したばかり。先生からは「句集確かに受け取った。ご健勝を」とはがきを頂いた。読んでくださったかどうかは不明だが、少なくとも金子兜太と同時代を生きた、記念の一冊となった。

 兜太先生とは毎年初夏、「海程」全国大会でお会いしていた。歯切れのいい選評が楽しみで、ここ十数年、欠かさず参加している。昨年は吟行で先生ゆかりの地、埼玉県長瀞(ながとろ)にある総持寺を訪れた。

 同行されたご長男から、「この先に親父(おやじ)が入ることになっている墓所があります」と案内された。町を見下ろす明るい墓所で、竹の葉が降りしきっている。

 竹の落葉期をいう「竹の秋」は、春の季語である。〈聡明な墓所長瀞竹の秋〉と詠み、出句した。兜太先生の入選となった。「うちの墓を褒めてもらったんだなあ、ありがたい、こんな句はいい気持ちですねえ」

 添削も入った選評を聞きながら、私は下を向き、泣きだしたい気持ちをこらえていた。その前日、大会席上で1年ほど後の「海程」終刊を発表した兜太先生。終刊への気持ちを説明し、責任を果たされる姿を見て、私のなすべきこと、句集への決心を固めた。(いしかわ・まゆみ 俳誌「海程」同人=広島市)

(2018年4月6日朝刊掲載)

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