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連載・特集

緑地帯 金子兜太の周りで 石川まゆみ <5>

 金子兜太先生の著書に「他界」や「悩むことはない」がある。ご長寿の先生の考えはおおらかで、寝しなに読んでは癒やされた。

 南洋の戦地トラック島に多くの死者を葬り、今後の人生は平和のためにささげると誓った、若き兜太先生。その姿勢は生涯ぶれなかったと評される。毎日「立禅」を実行されたのも有名だ。立禅は立ったままで、他界した人々の名前を声に出して順に唱えるもの。100人以上は唱え、他界に親しんでおられたいう。

 「他界」の本の帯には、「なにも怖がることはない。あの世には懐かしい人たちが待っている」とある。私は3日も続かず、立禅には強い意志が要ると知った。

 「海程」誌に、後継誌の「海原」代表に決まっている安西篤さんが、兜太先生とのやりとりを書かれた。「海程」創刊時に先生が提唱した、俳句形式への愛と俳諧自由(文芸としての自由さ)の基本を今後も守っていきたいと伝えると、師は、守るのではなく大きなうねりに乗せていけ、と言われた。「何をどうすべきかではなく、内発する力、そうしないではいられないものを問題にされたのかもしれない」と安西さんは記す。

 私が俳句の学び初めの時期に、兜太先生の門下にいたのは幸運であった。俳句に出合う前には現代美術に関わる友人が多く、その奔放な空気が好きだった。自由な創作、自由な解釈、それが俳句でできるとは。「海程」の創刊以来の理念は、「古き良きものに現代を生かす」である。感覚に忠実か、陳腐な考えではないか。そんな意識を磨くのは楽しいことだ。(俳誌「海程」同人=広島市)

(2018年4月12日朝刊掲載)

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