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連載・特集

緑地帯 金子兜太の周りで 石川まゆみ <8>

 「俳縁」という美しい言葉がある。俳句を通じた多くの出会い。20年前には、少し怖い先輩、信一郎さん。初期の拙句〈霧の朝縄文杉の遥かなり〉を特選にとってくださった。信号待ちの運転席から「おーい」と私を呼んだ元気な彼は当時90歳だった。

 ある時、句会中の公民館がグラグラッと揺れた。芸予地震である。「机の下へ!」と誰かが言い、しゃがんですぐに携帯電話をかけ始めた昌子さん。「揺れがやむとつながらなくなるからね」と、しゅうとめさんの安否を確かめる。人生経験豊かな方。2人とも故人となられた。

 よく響く声の愛子さんは音楽の先生。昨年、愛猫のエッセーを第2句集に入れて出版された。厚子さんは冷静な選評家。「その句は詰め込み過ぎよ」と言われたのを今も思い出す。「海程ひろしま」をつくった千鶴子さん。夫の益太郎さんと昨秋、各自の句集を出版された。そして、毎月集まる「海程ひろしま」の句友たち…。

 今、私の手元には俳句があるが、振り返ると実に多くの趣味に手を染めてきた。中学生の頃だったか、「自分の人生らせん階段」とひらめいた。絵や言葉や音の間を行き来し、バランスをとりながら登る、そんなイメージだ。半世紀が過ぎ、なんだかそのイメージ通りになっている。

 片寄れば、違う趣味が私をつかんで、別の側へポーンと投げ渡してくれる。軽くなる。また歩ける。金子兜太先生のように一本の太い道とはいかないが、らせんもそんなに悪い感じではない。(俳誌「海程」同人=広島市)=おわり

(2018年4月17日朝刊掲載)

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