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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル 自らを追い込む愚行だ

 北朝鮮が巡航ミサイルの発射実験に続き、おとといは日本海へ向けて弾道ミサイル2発を発射した。東アジア地域の平和と安全を脅かす暴挙である。菅義偉首相が「国連安全保障理事会決議に違反しており、厳重に抗議するとともに強く非難する」と述べたのは当然だろう。

 弾道ミサイルは、石川県能登半島沖の排他的経済水域(EEZ)に落下したとみられる。北朝鮮メディアはきのう、約800キロ先の日本海にある標的を破壊したと報じた。

 北朝鮮は国際社会の非難を無視して核・ミサイル開発を続け、東アジアの緊張をますます高めている。日本は米国など関係国と連携し、緊張緩和に向け、力を尽くさねばならない。

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記は1月の朝鮮労働党大会で国防力強化の方針を示した。核・ミサイル開発はその中核で、開発を進めるには実験が必須なのだろう。このタイミングでの実施は、8月に合同軍事演習をした米韓をけん制する狙いが読み取れる。

 北朝鮮は国連安保理決議で輸出入の制限などの制裁措置を受けている。加えて新型コロナウイルス対策の国境封鎖で国内経済は大打撃を受けているようだ。水害や干ばつで食糧不足も深刻化しているとみられる。そうした苦境の中で挑発を続ければ、制裁解除に向けた対話は遠のくばかりだ。軍備に巨費を投じている場合ではなかろう。

 ここは国際社会が結束し、北朝鮮を対話の場へと連れ出さねばなるまい。ところが国連安保理の緊急会合では、理事国の多くがミサイル発射を非難したにもかかわらず、中国とロシアは擁護し、一致した対応が見いだせなかった。

 中ロはコロナを理由に、対北朝鮮制裁の緩和が必要との従来の立場を重ねて表明している。国際社会に制裁緩和を主張するのなら、北朝鮮に対しても軍事的挑発をやめろと働き掛けるべきではないか。

 北朝鮮が弾道ミサイル発射に踏み切ったのは、中国の王毅国務委員兼外相が韓国外相と対談した直後だった。なりふりかまわず短期間にミサイルを相次ぎ発射し、米国の歩み寄りを引き出したいのかもしれない。

 トランプ前大統領が北朝鮮を増長させた面もある。首脳会談を急ぐあまり、米国に届かない短距離弾道ミサイルは問題視しなかったからだ。バイデン政権は、無条件で実務レベルでの協議を行う用意があると呼び掛けてきた。しかし北朝鮮は、先日の日米韓高官協議でも再確認された「前提条件なしの対話」の提案に、一連のミサイル発射で応えている。まずは対話の意思を示さねばなるまい。

 気掛かりなのは、日本や韓国の対応だ。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は交渉による南北関係改善を最優先だとしつつ、国防力強化を加速させている。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射実験成功を発表するなどわざと北朝鮮を刺激しているように映る。

 日本でも自民党総裁選の候補者が、攻撃される前に他国の施設を破壊する「敵基地攻撃能力」保有に前向き姿勢を見せている。「専守防衛」を逸脱する恐れがある。危機を利用した拙速な議論は避けるべきだ。

 日米韓が情報を共有しながら北朝鮮の動きを注視し、対話へとつながなくてはならない。

(2021年9月17日朝刊掲載)

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