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連載・特集

緑地帯 主権者を培う文化 大井赤亥 <1>

 首都圏の大学で政治思想を教える私の原点は、広島で「高校生平和ゼミナール」の活動をしたことにある。安田女子高の澤野重男先生たちに導かれ、被爆者への聞き取りや、高暮ダム(庄原市)の朝鮮人追悼碑の継承活動などに携わる中で、個人の生死を左右する政治権力の存在を強く感じた。

 原爆が造られた米ニューメキシコ州ロスアラモスの少年たちの呼び掛けに応じ、1998年、広島でも「世界の子どもの平和像(通称せこへい)」を作る運動が盛り上がった。当時高校生だった私も実行委員を担うことになった。

 広島に「せこへい像」を作るに当たって、私の念頭にあった先例は二つの像だ。一つは東京・渋谷にあるハチ公像。これから街へ繰り出す人たちが待ち合わせの場所に使うような、そんな目印の像になればと願った。

 もう一つは、英国の国会議事堂、ビッグベンそばにあるチャーチル像。台座にそびえるその像は、片足の爪先のメッキが剝げているという。そこを触ると幸運になるという言い伝えがあるようで、訪問客がなでていくからだ。せこへい像も自然発生的にそんな都市伝説ができるような、生活に根差した平和像となればと考えた。

 せこへい像は2001年、広島市民球場(中区)南側に建った。球場は移転したが、私の原点のような場所だ。紙屋町シャレオや本通り商店街に繰り出す時、せこへい像を待ち合わせ場所に使ってくれればと願っている。(おおい・あかい 日本学術振興会特別研究員=東京都)

(2017年12月1日朝刊掲載)

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