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連載・特集

緑地帯 主権者を培う文化 大井赤亥 <2>

 2005年、大学3年生の時に英オックスフォード大に留学し、政治学を学んだ。同大では、教員(チューター)と学生とが1対1で議論する教育法「チュートリアル」が有名だが、私の政治学のチューターは労働党員を公言しており、党の地域支部の評議員をしていた。とかく実際の政治とは距離を取る日本の政治学界では、ほとんど考えられないことだ。

 大学では保守党、労働党など主要政党の学生支部(ユース)も活発であり、毎週、どこかの政党の学生たちが小さな討論集会を企画していた。私も物見遊山で多くの集会に参加したが、午前中の授業で聞き覚えた政治の小噺(こばなし)を夜の集まりで朗々と披露するような、「学生政論家」たちの刺激的な場であった。

 週末になるとロンドンから著名な政治家がやってきて、ささやかなワインを会話の潤滑油に、学生との対話集会が持たれた。政治と学問との距離が近い分、政治にも教養と緊張感がある。

 当時最も勢いがあったのは、イラク戦争に反対し、移民への市民権付与や同性婚に積極的だった第3党の自民党で、保守・労働の2大政党に飽き足らない多くの学生の支持を得ていた。私の目の前で熱弁を振るったのは、07年から自民党党首を担うニック・クレッグで、その後、キャメロン政権で副首相となった。

 あらためて、人々が政治信条を躊躇(ちゅうちょ)なく表明する文化を感じるとともに、そうした活発な議論こそ、その国の政治のレベルを決する条件であると感じた。(日本学術振興会特別研究員=東京都)

(2017年12月2日朝刊掲載)

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