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連載・特集

緑地帯 主権者を培う文化 大井赤亥 <5>

 18歳選挙権が実現した2016年、新有権者の意見を取り上げたNHKの討論番組「18歳からの質問状」(5月4日放映)を見て、考えさせられた。

 番組での新有権者による政治批判は大きく二つ。第一に、「政治家の話は難しい」「もっとわかりやすく話すべきだ」。第二に「政治家はお金もらいすぎ」「目に見える結果を出せ」。これは、健全な政治批判とは似て非なるものと感じた。

 このような政治批判の背景にあるのは、ある種の納税者意識であろう。この意識は、政治に対する「消費者意識」に転化されてきた。政治を市場に見立て、政治家や官僚を企業、有権者をお客さまと捉えた上で、有権者が対価(税金)を払って政治サービスを享受すると考える意識である。

 しかし、デモクラシーとは民衆の自己統治であり、われわれは政治決定の消費者であると同時に、否それ以前に、生産者である。政治批判というのは、結局、それを選んでいるのはあんただよと、天に唾する側面がある。換言すれば、まっとうな政治批判は、政治を担う主体としての自己変革を伴うことになる。

 米国のオバマ前大統領が初当選した時のスローガンは「チェンジ」であった。チェンジは、「何かを変える」という他動詞であり、「自ら変わる」という自動詞でもある。われわれ自身「が」変わることで、われわれの政治「を」変革していくことの先に、政治の消費者から生産者への転換が開かれるはずだろう。(日本学術振興会特別研究員=東京都)

(2017年12月7日朝刊掲載)

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