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連載・特集

緑地帯 主権者を培う文化 大井赤亥 <7>

 目下、日本政治は「安倍一強」による「安定」がいわれる。しかし、野党分裂と低投票率によって突出した安倍政権の「安定」は、主権者意識のダイナミズムで成り立つものといえるだろうか。

 今年の衆院選の後、とあるラジオ番組に遭遇した。番組内で司会者がリスナーに意見を募っている。「安倍政権にしてほしいことは何ですか? どしどし募集中でーす!」。リスナーがメールで答えていく。いわく「子育て支援をしてほしい」「雇用対策をしてほしい」などなど。

 どの要望にもまったく同意なのだが、要望をくみ上げる司会者とリスナーとの問答の形式に、違和感を抱きながらの時間でもあった。今の日本政治は、「してほしい」という立場の有権者と、「してあげる」という立場の政権との、奇妙な相互依存関係で「安定」してはいないか。

 デモクラシーとは民衆の自己統治であり、この国の最高権力者は安倍首相ではなく、主権者われわれ一人一人である。政治家とは、「ちょっと俺の代わりに国会に行ってこい」と選ばれた代表にすぎない。したがって、本来の適切な問い方は「政権に何をしてほしいか」ではなく、「われわれ主権者が政権に何をさせるべきか」という形式になるだろう。

 もちろん、このような主権者のロジックは建前であり、現実の実感とは程遠い。しかし、建前を現実化するためには、建前を確認する作業が必要だろう。政治とは徹頭徹尾、「してもらう」ものではなく「する」ものなのだから。(日本学術振興会特別研究員=東京都)

(2017年12月9日朝刊掲載)

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