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連載・特集

緑地帯 麗しのキューバ 佐藤美由紀 <2>

 5月、首都ハバナのホセ・マルティ国際空港に到着したのは日付が変わる頃だった。午前2時すぎ、やっとホテルの客室に落ち着くことができたが、長旅で疲れていたのだろう。目覚めるとすっかり朝になっていた。カーテンを開けると、建物の向こうにカリブ海が広がる。すがすがしい一日の始まり(になるはず)だった。

 が…。シャワーを浴びてバスルームを出た私は、目を疑った。客室の半分くらいが水浸しになっているではないか。落ち着け、落ち着け。自分に言い聞かせ、この状況を理解しようと、私はバスルームに戻る。

 そこには、洗面台とトイレ、そしてシャワースペースがある。シャワースペースとトイレの間にはパーテーションがついているが、幅は50センチほど。シャワーを浴びれば、どうしたってトイレのほうにも水が飛び散ってしまう。

 普通なら、トイレ側の床にも排水溝の穴があるため、水が客室にまであふれ出ることはない。ここにも穴があるにはあった。しかし、床が少し盛り上がった所にあるため、まったく本来の役目を果たしていないのだった。この水浸し。どう考えても、自分に非があるとは思えなかった。

 だからといって放っておくわけにはいかない。水たまりにバスタオルを広げ、水を吸収してぐじゅぐじゅになったそれを、今度はシャワースペースの床に置いて両足で踏んで水気を取り除いて、また水の中に広げて―を繰り返す。

 床の水が一応なくなる頃には、私はクタクタに疲れ果てていた。(ノンフィクションライター=東京都)

(2017年9月26日朝刊掲載)

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