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連載・特集

緑地帯 麗しのキューバ 佐藤美由紀 <3>

 客室の床拭きという想定外の労働を終えた後、ホテルのロビーで、今回の取材の通訳を務めてくれるSさんに会った。私が客室水浸し事件のことをぼやくと、彼女は、部屋を替えてくれるようフロントに掛け合ってくれた。

 しかし、結果はノー。「満室だし、そもそも、部屋を変わっても同じだそうよ。『仕方ないのよ、構造に問題があるんだから』だって」。フロントで聞いたことをSさんが教えてくれる。

 インテリアの感じからすると、1950年代に建てられたとおぼしきホテル。ランクは中の上。超高級ではないが、1泊200ドルもする。それでこのトラブルだ。情けなくなったが、仕方がない。その夜から私は、バスタオルを土のうのように置き、かつ、シャワースペースの隅っこのほうでシャワーを浴びることにした。それでも少しは客室に水が流れ出たが、初日よりははるかにマシだった。

 「そういえば、バスルームの件、どうなった?」。2、3日後、Sさんが尋ねてきた。私が現状を伝えると、「佐藤さん、それでいいのよ」と彼女はウインクをして続けた。「キューバでは、環境や状況を受け入れ、自分が順応して生きていくしかないの」

 アメリカによる経済封鎖やソ連の崩壊などでキューバは長年、物不足に悩まされ、人々はつつましやかに暮らしてきた。しょっちゅう断水もするが、各家庭では大きなタンクに水を備えているという。環境に順応して、たおやかに生きるキューバの人々が、なんだかいとおしくなってきた。(ノンフィクションライター=東京都)

(2017年9月27日朝刊掲載)

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