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連載・特集

緑地帯 麗しのキューバ 佐藤美由紀 <5>

 一台の車の前に立った私の顔は思わずほころんだ。ピカピカに磨かれたグリーンの「シボレー・インパラ」(米ゼネラル・モーターズ社製)。1950~60年代に生産された、正真正銘のクラシックカーだ。

 ハバナにあるチェ・ゲバラ研究センターの中庭に置かれているそれは、実は、フィデル・カストロとともにキューバ革命の指揮を執ったチェ・ゲバラが乗っていたもの。その人の愛車が目の前にあるという事実に、私は相好を崩してしまったのだった。

 同センターは、ゲバラに関する資料を保管し、その生き方や思想を正しく伝えていくことを目的として創設された機関だ。一般に公開されているわけではない。では、なぜ、私はゲバラの愛車を見ることができたのか。

 今さらではあるが、私は、物見遊山のためにキューバを訪れたわけではない。目的は取材である。チェ・ゲバラ研究センターを訪問したのも、取材のためだった。

 ゲバラのことを書きたいと思った。何を書きたかったかというと、ゲバラの〝ヒロシマへの思い〟だ。

 59年7月25日、キューバの親善使節団として来日していた彼は、電撃的に広島を訪れている。希代の革命家は、なぜそこまで広島にこだわったのか、この地で何を感じ、何を持ち帰ったのか。広島(福山市)出身の私は、どうしても知りたかった。

 ゲバラのヒロシマへの思いは、先ごろ上梓(じょうし)した拙著「ゲバラのHIROSHIMA」を読んでいただければ幸いだ。(ノンフィクションライター=東京都)

(2017年9月29日朝刊掲載)

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