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連載・特集

緑地帯 麗しのキューバ 佐藤美由紀 <7>

 58年前にチェ・ゲバラが来訪し、帰国後、折に触れて言及したことが影響しているのだろうか。キューバではヒロシマ(ナガサキも含めて)が広く知られている。

 1962年にキューバ危機が起こり、国家と国民が核戦争の危機にさらされたことも関係しているのだろう。ヒロシマ・ナガサキに連帯感を覚えるキューバ人も少なくないように思う。「ヒロシマ・ナガサキに行ってみたい」と口にした人も多かったし、実際、広島を訪れたことがある何人かにも会って話を聞くことができた。

 Rさんは、原爆慰霊碑前に立った時、悲しみや怒りが入り交じった感情で胸がいっぱいになり、涙があふれてきたという。「一つの街が一瞬にして消され、多くの命が奪われてしまった。原爆資料館では、その事実を突き付けられ、うそでしょうと思いましたし、その後、現在の美しい広島の街が再建されたなんて、にわかには信じられませんでした」

 さらに続けた。「広島は美しくてダイナミックな街。平和のシンボルとしてだけではない魅力があります」。マツダスタジアムで野球観戦もしたそうだ。「老若男女、みんなが赤い服を着て球場に向かっている様が印象的。キューバと同じじゃないですか」

 こう言ってニッコリほほ笑んだRさん。取材ノートに貼っていたカープ坊やのシールを見せると、「ワオ、カープ!」と手をたたいて喜んでくれた。広島から遠く離れたカリブ海に浮かぶ小国でカープ話ができるとは! 私は、小躍りしたいほどうれしくなった。(ノンフィクションライター=東京都)

(2017年10月3日朝刊掲載)

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