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連載・特集

『生きて』 茶道上田宗箇(そうこ)流16代家元 上田宗冏(そうけい)さん(1945年~) <15> これから

おもてなし 味わい深く

  ≪2019年は江戸時代に上田家が仕えた旧広島藩主浅野氏の広島入りから400年の節目だった≫

 原爆で江戸期の広島の文化は残っていないとの思い込みが地元でも長く支配的だった。だが19年の広島県立美術館(広島市中区)の「浅野家の至宝」展では、唐絵を中心に浅野家が旧蔵した一級の文化財が集められた。厳しく言えば総花的な展示で焦点がややあいまいではあったが、藩の文化水準の高さが示されていた。

 今後は広島の歴史文化を伝える場がもっと増えればと思う。残念ながら県立美術館は江戸期の広島に関わる収蔵品が少ない。せっかく縮景園に隣接しているのだから、広島の古美術史を柱の一つに据えてほしい。同館に限らないが、地元の文化を担う人材の育成は課題だろう。

 ≪自身が取り組んだ広島の文化復興には普遍的な意味があったと振り返る≫

 08年、母校慶応大の創立150年を記念したパネル討論に招かれた。「日本人のアイデンティティー」というテーマで、上田流と広島の文化の復興、継承の話を論題にしていただけたのは大変光栄に感じました。

 思えば今、日本のどこでも伝統文化の存続は簡単ではない。しかし、上田流は明治維新から140年、被爆から63年を経て、08年に江戸時代の上田家上屋敷の構成を和風堂(西区)に再現できた。思いがあればそれぐらいの空白は埋められる。勇気づけられるところがあるのではないか。

 ≪現在新型コロナウイルス禍で従来のように大きな茶会は開けない≫

 実はそれほど悲観していない。お茶は当意即妙、臨機応変なもの。時代に合うやり方を考えればいい。

 比較的感染が落ち着いたときは、旧知の方を2、3人ずつ招待して小さな茶席を設けている。主人と客があうんの呼吸でもてなし、もてなされる。桃山時代のお茶に近づいていると言えるかもしれない。かえってもてなしが持つ本来の魅力を深く味わえている。僕ももう76歳だが、これからもその時々に即した生き方を追究していきたいですね。=おわり(この連載は報道センター社会担当・城戸良彰が担当しました)

(2021年9月18日朝刊掲載)

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