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連載・特集

『緑地帯』 地図に魅せられて 竹崎静嘉 <3>

 「ここへ来れば大概の地図はそろう」「山の名を言えば地図がスッと出る」などと言ってもらえたのは、すべてお客さまからの教えの賜物(たまもの)である。

 加藤武三さん著「広島をめぐる山と谷」や、広島修道大ワンダーフォーゲル部の「旅鳥 広島の山歩き」、中国新聞社の「ひろしま百山」といった登山ガイドを参照しつつ、山と図名の索引を作ったり、山好きのお客さまから教えていただいたりして、記憶の「引き出し」ができていった。

 問題は実際の「引き出し」である。店頭の130段のカウンターや、背部に二つあった60段ほどの地図整理箱に、地図をいかにして収めるかが課題であった。

 一つの引き出しに130枚前後の地図が入る。全体を整理するために、原則として20万分の1地勢図の範囲を基準単位に、順番を定めていった。図名ではなく山名や地名で言われても、遠方の北海道や沖縄でも出すことができた。何地方かを聞けば、だいたいあの辺の引き出しだなと見当がつく。中国地方、とりわけ広島県については、需要を重視して収納する順番や在庫枚数を決めた。

 ただ、問題はもう一つあった。国土地理院刊行の地図は、政府刊行物なので返品ができない。新刊が発行されると在庫の地図はただの紙くずと化す。それをいかになくすかが大きな課題なのである。

 売れる在庫を確保しつつ、不良在庫にならないようにするという相反する悩み。新刊の見込みを2、3カ月前にでも予告されることを願ったり、翌年の刊行計画の公表を願ったりした。(中国書店店主=広島市)

(2017年9月5日朝刊掲載)

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