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連載・特集

『緑地帯』 地図に魅せられて 竹崎静嘉 <4>

 「自分の家はここよ」と紙に描く。地図の第一歩ではないだろうか。地図とは単純なものから複雑な内容のものまで多種多様だ。わが家への道案内の略図に始まって、通学路、登山道、渓流釣り、鉄道ファンが撮影地を探すのにも利用される。

 大学の自転車部の部員が、20万分の1で全行程、5万分の1で幅員や坂道の傾斜の緩急を調べる。中高生が地形段彩図を作製する。学術研究で、図面から地形の成り立ちを解明するというような高度な使われ方もある。

 在庫の調整でいえば、時期的な考慮も必要である。かつては年度当初の4月になれば、役所の土木部や農林部から道路・河川・港湾・農地などの計画や施行に引き合いがあった。夏山シーズンともなれば、日本アルプスをはじめ名だたる山々の地図が求められる。もちろん、手近な地元の山もしかりである。

 それぞれの時代の世相も反映する。田中角栄首相の日本列島改造論による高速道路建設が始まると、道路公団に多数の地形図を購入していただいた。中国自動車道の建設時には、遠く岡山の津山まで納入に行った。

 バブル景気の頃には、土地投機に関わっていると推測できるお客さまが目立った。乗ってこられる自動車が、だんだん高額な車種に変わっていった。

 テレビの衛星放送が始まると、難視聴地域を解消しようとするNHKなどに、携帯電話が普及すると、移動体通信の会社にも、アンテナ設置のために大量に購入していただいた。(中国書店店主=広島市)

(2017年9月6日朝刊掲載)

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