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連載・特集

『緑地帯』 地図に魅せられて 竹崎静嘉 <6>

 25年くらい前だったと記憶している。ある人の講演で、地図の未来についてのお話をうかがった。測量成果や作図が電算化され、情報がデータ化される。従前の流通システムが全く変わってしまう―。内容の完全な理解などできなかったが、紙地図の売れ行きはよくならないという印象は残った。「何やら希望の持てない話だなあ」と、同席した知人と話したのを覚えている。

 今まさに、その通りの時代である。データ化された「数値地図」なるものがまず現れた。カーナビを自動車に取り付ければ、行き先まで画面と音声で案内してくれる。スマートフォンは、住所を入力すれば直ちに画面に地図が表示される。次から次へと紙地図が不要になっていく。

 活断層研究が専門の広島大名誉教授の中田高先生に、昨年春に起きた熊本地震に関わる地域の画像を見せていただいたことがある。現地でドローンを飛ばして撮影した写真を基に、パソコンで3次元の立体画像を作成して、上から横からいろんな角度から考察できるのだ。IT技術の進化にはまったく驚かされる。

 熟練された職人が不可欠だったアナログ時代に比べ、デジタル化されたデータの変更は、追加であれ修正であれ簡単に行える。熟練者である必要はなく、パソコン上で指示ができればいい。紙地図の製図、印刷にかかる膨大な時間に対し、非常に短時間でできる。ベクター、ラスター、フォトショップ、イラストレーター…。デジタル地図の進化に伴い、出てくる用語の数々には戸惑いを覚える。(中国書店店主=広島市)

(2017年9月8日朝刊掲載)

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