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連載・特集

緑地帯 地図に魅せられて 竹崎静嘉 <8>

 広島市中区本通に構えた店舗をたたんだのは4月の半ば。今もって「あら、地図屋がなくなってる」との声があるらしい。

 店に入るには、ガラガラと木製の引き戸を開ける。60年以上の間、ずっと動いてくれた。「この戸をいつまでも置いといてくれ」と言われるお客さまもあった。皆さまに教えられ育てられ、声が掛かれば「はい、どうぞ」と地図を出せるくらいにまでなれた。

 判別しにくいコピーの地図でも、「これはどこじゃろうか」と聞かれれば、首をかしげながらもその地図を探し出した。お客さまの満足そうな顔を見て、「よかったなあ」と思う。「30年前、学生時代に地図を買った。懐かしい」と店内を一巡される方もあった。長く続けてこられた幸せをつくづく感じる。

 広島県内の小中高、特別支援学校を対象にした、地図の理解と活用を促すための「地図ならびに地理作品展」というコンクールがある。全国に先駆けて、半世紀を超える歴史を誇るが、当初から携わらせていただいた。このことにも非常に幸せを感じている。

 父がよく「地図だけで飯が食えたらなあ」と言っていた。人々を魅了するような地図屋を常に求めてきたつもりだが、答えを得られずに結局、閉店を迎えることになってしまった。

 閉店することがメディアに取り上げられ、多くの方々が来店し、労をねぎらってくださったことは感謝に堪えない。お礼を申し上げるのは私の方なのだ。本当に長い間、ありがとうございました。(中国書店店主=広島市)=おわり

(2017年9月12日朝刊掲載)

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