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連載・特集

緑地帯 真宗学寮あまり風 岡本法治 <6>

 高松和上が有志に推されて真宗学寮の初代学頭になるのが、40歳の時である。龍谷大の教授にという話もあったが、地方の人材を育てたいと断られたという。

 その前年の歳末に作られた漢詩が「高松悟峰和上語録」に載せられている(書き下しは筆者)。

 「朔旦経営計未全。嚢中無畜一文銭。夜深窓外春風動。笑告家人好送年。」(朔旦の経営、計未(いま)だ全うせず/嚢中(のうちゅう)に畜(たくわ)え無く、一文の銭/夜深く窓外に春風動き/笑いて家人に告ぐ、好(よ)く年を送らん)

 大みそかではあるが、明日の元旦の準備をしようにも、お金は全くない。しかし夜更けて窓の外に春がやってくるのを感じる。笑って寺の者に告げよう、何とか年を越せそうだと―。

 2千年前、イエス・キリストは「貧しき者は幸いなり」と言った。大乗仏教も、同時期に成立する。つまり地球規模で人類の救いが問題となったのである。

 現代は、1月に公開された報告書によれば、たった8人の富豪の資産と、世界人口の所得の低い側の半数に当たる約36億人の資産が同じという、超格差社会である。いのちよりお金が大切にされている。こんな時代に、学費無料の学寮が護持されてきた。

 学寮に、今もお金はない。しかしお金の力だけならば、すでに消えていた。念仏の「土徳」が支えているから、学寮と仏教学院をあわせて4千人の方が学んだ道場が伝えられてきたのである。

 お金がないからこそ、護持されている。だから混迷の時代を開く希望となる。念仏はこの世と私の闇を破る智慧(ちえ)の光である。(真宗学寮教授=東広島市)

(2017年7月13日朝刊掲載)

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