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連載・特集

中国地方の視座 自民党総裁選 <上> 核政策

 菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選(29日投開票)で、候補者の4人が政策論争を繰り広げている。私たちはどのような視点で候補者の主張を判断し、総裁選の先にある衆院選の投票行動につなげればよいのだろうか。核軍縮、新型コロナウイルス対策、中山間地域振興の三つのテーマで、中国地方の専門家たちにポイントを聞いた。

広島市立大広島平和研究所 水本和実教授(64)

禁止条約もっと議論を

問われる長期的視野

  ―総裁選の核兵器廃絶を巡る議論をどう見ますか。

 まだ、争点になり得ていないというのが率直な印象だ。一部の候補者が政策の中で触れているが、これまでの自民党の政策の枠を出ていない。核兵器禁止条約が発効し、核軍縮を巡る国際情勢が厳しい今こそ、日本の政治家として核問題をどう考えているのか、明確に語るべきだ。

  ―本来は、どのようなテーマで議論されるべきですか。
 例えば核兵器禁止条約では、来春には初の締約国会議が予定され、日本がオブザーバー参加するかに国際的な注目が集まっている。政府は慎重な姿勢だが、党としてもっと議論をすべきだ。条約自体についても、ただ否定するのではなく、どのような意義を認め、推進する人たちとどう歩み寄ることが可能なのか、意見を交わす姿を見せてほしい。

  ―バイデン米政権の核兵器の「先制不使用」を巡る動きも注目されています。
 米国はオバマ政権下の2010年に発表した核政策指針「核体制の見直し(NPR)」に先制不使用を盛り込もうとしたが、実現しなかった。日本政府が反対したとも報じられたが、バイデン大統領は先制不使用の考えを引き継いでいるとされ、日本の対応も問われる。

 私は自民党内にも、先制不使用の方針を受け入れてもいいと考えている人がいるのではないかと思う。党として打ち出すことが難しいとしても、党内でどのような課題認識があり、どのような意見が交わされているのか、対外的に示すことがやはり大事だ。

  ―議論が深まらない背景は。
 核兵器廃絶に政治生命を懸けて取り組もうという政治家が少ない上、任期中に明確な答えや成果が出にくいテーマだ。先送りした方が得と考えてもおかしくない。核問題への関心が乏しい党内の雰囲気を物語っている。党内の関心を集められなければ、力も割きにくい。党としての安全保障政策の中で核兵器禁止条約を支持できず、他の候補者と違いを出しにくい面はあるのだろう。

  ―候補者は一方で、防衛費の増額や敵基地攻撃能力などに言及しています。
 中国や北朝鮮、ロシアといった近隣の国々にどう向き合うかという話題になると、目の前にある「脅威」から議論が始まりがちだ。そうすると、防衛の強化に議論が集中する。

 少なくとも核問題については、あるべき姿、目指す着地点から逆算する政治があっていいはずだ。例えば、どうすれば北朝鮮の核兵器やミサイルの開発を止め、共生できるのか。現状の難しさから語り始めるだけでは打破できない問題がある。総裁選は海外の政治家やメディアも注視しており、政治の長期的な視野も問われるだろう。

  ―どうすればそうした議論が可能になりますか。
 禁止条約の成立では、欧州などの政治家と非政府組織(NGO)の連携が力を発揮した。政治とNGO、NPOなどとの距離は確実に近くなっている。日本でも若い世代が自ら核問題を学び、政治家との対話を進めようとする動きがある。党内だけではなく超党派、さらに政界の外に目を向けて核政策を語る重要性は増している。(明知隼二)

みずもと・かずみ
 1957年、広島市中区生まれ。東京大法学部卒。米タフツ大フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。朝日新聞ロサンゼルス支局長などを経て98年4月に広島市立大広島平和研究所助教授。2010年4月に教授、同年10月から19年3月まで副所長。専門は核軍縮。

(2021年9月22日朝刊掲載)

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