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連載・特集

緑地帯 師の教え 築田哲雄 <8>

 信楽峻麿先生は龍谷大学長時代から亡くなる数カ月前までの20年余り、広島市近郊に住む教え子や門信徒が年に10回ほど広島で催す「甘露の会」に、休むことなく通い続けられた。そこで一貫して語られたテーマは「仏教とは」「親鸞の教えとは」。何ものにも妨げられることのない、自立した生き方を教えたものである。

 今日は価値観が多様化し、予想もしなかった価値観が急に世間の支持を集めるような時代である。むやみに大勢に流されず、仏教の智慧(ちえ)や念仏、信心に基づき、世俗のいかなる価値をも絶対視せず、そのすべてを相対化して生きることを講義の中心に据えられた。

 仏教者や念仏者のあるべき姿について、先生が強調された信心の「しるし」が私の心に残る。親鸞は「こうしなさい」「ああしなければいけない」という「きまり」「おきて」は言わず、門弟たちに「しるし」を求めた。「きまり」「おきて」が外から与えられた規範や規制であるのに対し、念仏や信心に基づいて「こうありたい」「こうせざるをえない」という、私の内からわき出る自立した行動が「しるし」。念仏に生きようとするなら、証しを見せてほしいと親鸞は言っているのである。

 「今また新しい戦前への動きが強まっている」という戦争体験者の危惧を思う時、一人一人が信心の「しるし」を示すことを、仏教者の戦争責任を問い続けた先生はお浄土からじっと見つめられているだろう。「甘露の会」を続けていくことは、私たち弟子の大切な役目と思っている。(広島仏教学院講師=広島市)=おわり

(2016年12月20日朝刊掲載)

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