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社説・コラム

社説 米英豪の新安保 核拡散の恐れ拭えない

 米国、英国、オーストラリアが新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を構築すると突然表明した。3カ国が結束してインド太平洋地域の平和と安定を図るという。

 米国は「いかなる国に向けられたものでもない」としているものの、中国を意識していることは明らかだ。この地域には既に経済、技術開発の協力を目指す日米豪印4カ国の「Quad(クアッド)」がある。オーカスはさらに軍事面でも、中国を包囲するのが目的なのだろう。

 中国が覇権主義的な態度を強めていることに疑いはない。だが、あからさまな包囲網は中国を反発させ、対立を激化させるだけではないか。互いに力の誇示は慎むべきである。

 オーカスでは、米英が非核保有国オーストラリアへの原子力潜水艦導入を支援する。原潜は核弾頭を積み込めるため、核保有国しか持っていない。技術の機密性は高く、外国に供与されたのは、63年前の米国から英国への1例しかない。

 バイデン米大統領は「核武装した潜水艦ではない。動力に原子力を使うだけだ」と説明。モリソン豪首相も「核兵器を持つ意思はない」としている。

 しかし、前例のない非核保有国の原潜所有となる。専門家が「不拡散体制の深刻な抜け穴として他国が悪用する恐れがある」と危惧するのも当然だ。

 バイデン大統領は「自由で開かれたインド太平洋が数十年にわたって繁栄する」ことが世界の未来に必要だという。3カ国でサイバー分野や人工知能の先端技術で協力、最新の防衛力を確保すると意義を強調する。

 ただ、その代償はあまりに大きい。オーストラリアに潜水艦建造契約を破棄されたフランスは怒り、米豪両大使を引き揚げてしまった。北大西洋条約機構(NATO)の同盟国を裏切る形で原潜導入を強行する必要があったのか。欧州連合(EU)も批判を強めている。

 オーストラリアに近い、南シナ海周辺の各国は不安だろう。インドネシアは「軍拡競争が続くことを大変懸念している」と表明。マレーシアのマハティール元首相が「危機になれば戦争に突入する恐れすらある」と警鐘を鳴らすのも、もっともだ。

 オーカスが同盟国や友好国との関係を損ねてしまったことは否定できない。亀裂が入った関係を今後どう修復するつもりなのか。バイデン大統領が目指すのは、同盟国や友好国と協調した外交ではなかったか。

 日本政府の対応も疑問だ。茂木敏充外相は英豪両外相と電話会談し、オーカスを歓迎する意向を早々と伝えたという。

 日本は被爆国である。核拡散につながりかねない原潜導入を目指すオーカスに、なぜやすやすと賛意を示すのか。安易な追従はやめるべきだ。

 オーストラリアへの原潜導入は、世界中に派兵してきた米国が、その軍事力を同盟国に肩代わりさせる思惑があるのかもしれない。将来、日本がオーストラリアと同じような対応を求められないとも限らない。

 クアッド4カ国の首脳会議があすから米国で開かれる。出席する菅義偉首相は、オーカスを進める米豪首脳にもの申す必要がある。被爆国のトップとして核不拡散を堅持する必要性を、きちんと伝えねばならない。

(2021年9月23日朝刊掲載)

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