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記録映画「先祖になる」池谷薫監督 岩手の「頑固おやじ」活写

 ベルリン国際映画祭で特別表彰、香港国際映画祭でドキュメンタリー部門の最高賞を受賞した記録映画「先祖になる」が、広島市中区のサロンシネマで16日まで上映されている。東日本大震災の被災地が舞台だが、池谷薫監督(東京都)は「単なる震災映画ではない。土地に根差して生きることの意味を問い掛ける作品」と語る。

 「人間を撮る」が信条の池谷監督。今作は、震災から約1カ月後の岩手県陸前高田市で会った佐藤直志さん(79)を追った。農林業を営む“頑固おやじ”は、津波で息子を失った地で、ぐちゃぐちゃになったわが家を建て直すと宣言する。

 仮設住宅を拒み、あきれた妻と別居しようが、山に入って木を切り、家を造る材料を調達。休耕田で田植えをし、がれきの上にそばの種をまいて自給自足の道も探る。

 「自分を追い込み、有言実行を貫こうとする生きざまは、無責任な今の世に欠けているものを突き付ける」と池谷監督。震災前に確かにあった集落の姿をいつの日か取り戻す―。映画のタイトルは、佐藤さんの決意そのものだ。

 池谷監督は被爆2世。父親が広島で原爆に遭ったという。文化大革命で引き裂かれた中国人親子の再会を描いた「延安の娘」(2002年)、第2次大戦後の中国残留日本兵を追った「蟻(あり)の兵隊」(06年)から一貫して、「語り継ぐことの大切さ」を訴えてきた。

 今作も共通する。震災から2年が過ぎ、風化もささやかれる中、「物理的な復興ばかりに目がいって、被災者の気持ちにどれだけ心を寄せてきたか。そこのところの想像力を欠けば、風化は免れない」と問い掛ける。(松本大典)

(2013年8月8日朝刊掲載)

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