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社説・コラム

社説 日米豪印 首脳会談 中国との対話も模索を

 日本、米国、オーストラリア、インドの首脳が米ワシントンで初めて対面式の会談に臨んだ。「自由で開かれたインド太平洋」を目指して、「Quad(クアッド)」と呼ばれる枠組みを設けた4カ国である。

 首脳たちは、宇宙分野やサイバー空間での協力拡大など、新たな連携分野と協力策を明記した共同声明を発表した。質の高いインフラ整備や、半導体をはじめ重要な技術の供給網強化なども盛り込んだ。

 この地域の大国が手を携えて経済協力を深めることに重要な意義がある。とりわけ域内にある中国が覇権主義的な動きを強めているだけに、民主主義を掲げる4カ国の連携が重みを増すのは間違いなかろう。

 一般的に、力による抑え込みは地域を分断し、緊張を高める恐れがある。対話を重ねるなど、あくまでも外交努力によってでなければならない。クアッドにも、その一翼を担って尽力することが求められるはずだ。

 共同声明は、インド太平洋地域の安全と繁栄強化のため、国際法に根差し、威圧にひるまず、ルールに基づく秩序を推進するとした。具体的には「法の支配、航行の自由、紛争の平和的解決、民主的価値を支持する」という。名指しはしていないが、念頭には中国がある。

 近年、中国の言動が目に余るからだ。例えば「一国二制度」に基づく高度な自治を守ると約束していた香港での自由や民主主義の抑圧、南シナ海と東シナ海での強引な海洋進出など、国際秩序を揺るがしている。歯止めをかけるには国際社会の連携が必要なのは間違いあるまい。

 そのため、バイデン米大統領は中国包囲網の強化を進めている。先日は、英国やオーストラリアとの新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」の構築を発表した。事実上の軍事同盟であり、経済面での連携を主眼にしたクアッドを補完する狙いもあるのだろう。

 ただ、米国主導の中国けん制には東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめ近隣の国々に懸念の声がある。米中対立が先鋭化すれば、地域の安定や平和に逆行してしまいかねない。

 クアッドも一枚岩ではない。インドはそもそも「非同盟」主義のリーダー役だった。中国とは国境紛争を抱える半面、経済面では強く依存しているなど関係悪化は望んでいない。共同声明で中国名指しを避けたのも、インドへの配慮からだろう。

 日本にとっても中国は重要な貿易相手で、つながりは深い。米中対立をあおりかねないクアッドへの警戒感も一部にある。

 日本はむしろ、対立する米国と中国の間に立って緊張を和らげる役割を果たすべきではないか。それには中国との対話が欠かせない。国同士だけでなく、クアッドとしても首脳や閣僚、実務者など各レベルでの定期会談の場を設ける必要がある。

 近く退陣する菅義偉首相にとって、今回の訪米は最後の外遊となった。クアッドの会合後、日米首脳会談が行われたが、わずか10分間。米国の関心は次の首相に向いているのだろう。

 そもそも、コロナ対策に専念すると言っていた菅首相が行く必要があったのか。目的と成果を国民に説明しなければならない。残り1週間の在任中に果たすべき宿題の一つである。

(2021年9月27日朝刊掲載)

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