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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] 韓国 日本の戦争責任追及

記事量は総じて少なめ

■金栄鎬 広島市立大教授

 被爆75年だった昨年、韓国では一部の全国紙が韓国人被爆者の現状などについて報じたものの、報道量は総じて少なかった。記事が全くなかった新聞も複数ある。そこで、過去10年ほどに期間を広げて振り返りたい。原爆を巡る議論が多様であることが見て取れる。

 韓国の新聞は大きく保守系紙と進歩系紙に分かれ厳しく対立するが、原爆報道では一定の共通点がある。日本政府の平和アピールに対して、戦争責任を対置する傾向があることだ。「人類」や「文明」という視点から語られる「平和」に対して、原爆投下までの歴史的な文脈をはぎ取った「ヒロシマの脱歴史化」にほかならないと批判する。

 その上で、保守系紙は以前から、原爆が軍国主義日本の敗戦をもたらし植民地解放を導いたとする一種の「救済史観」の立場を取る。しかし進歩系紙は、国体護持のために降伏を引き延ばした日本政府の「招爆責任」を問いつつ、朝鮮半島出身の被爆者を含む民間人虐殺だったとする。

 また、韓国の原爆論、原爆史観には、核・ミサイル開発を含む北朝鮮の「脅威」と、米韓同盟を巡る認識の対立も作用している。

 安全保障のためには「敵に対する安全」が必要とし、封じ込めと抑止力あるいは先制攻撃力を重視する立場は、米韓同盟の強化を志向する。米国の核抑止力への評価は、原爆が戦争終結・植民地解放をもたらしたという史観を補強する。

 一方で、安全保障のためには「敵とともにつくる安全」が必要だとして対話と交渉による平和的解決を重視する立場は、米韓同盟と距離を置こうとする。米国の核抑止力への評価は、「原爆投下の目的はソ連に対するけん制だった」とする冷戦史の修正主義史観と結びつきやすい。

 過去10年間の原爆報道で最も多く社説に取り上げられた2016年のオバマ米大統領(当時)の広島訪問時も、そういった傾向が見られた。保守系紙・進歩系紙ともに日本の戦争責任の後退を批判した。その上で原爆投下について、保守系紙は戦争終結・植民地解放論に傾いたのに対して、進歩系紙は罪のない民間人虐殺を米国が謝罪しなかったことを批判していた。

 ただし、ある保守系紙が13年のコラムで原爆投下を「神の懲罰」になぞらえたとき、進歩系紙だけでなく他の保守系紙でも批判的な論調が多数だった事実も記しておく。

(2021年9月27日朝刊掲載)

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