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社説・コラム

『想』 鈴木由美子(すずき・ゆみこ) 学都広島ルネサンス

 学都広島ルネサンスとは、広島をもう一度、日本の教育の中心にしたいとの思いで、私が作った言葉だ。広島は、かつて学都と呼ばれていたことがある。1902(明治35)年に広島高等師範学校が設置され、教員養成の西の総本山として、東京高等師範学校と並び称された。その附属中学校として設立されたのが、現在の広島大学附属中・高等学校である。その後、広島には多くの官立、公立、私立の高等学校が設立された。29(昭和4)年には広島文理科大学が開設され、広島は学都として栄えていたのである。

 私は2019(令和元)年から広島大学附属中・高等学校の校長として赴任しているが、最初に思ったことは、この学校には愛があるということだ。一般的には進学校とみなされているが、生徒にも教師にも、受験でぎすぎすした雰囲気はまったくない。あるのは、お互いを尊敬し、思いやりをもってことにあたる自由な精神である。私はそこに、近代教育の父ペスタロッチーの精神を見るのである。

 ペスタロッチーは、どんな子供の中にもある良心を信じ、働きかけ、伸ばすための教育方法を考案した。広島大学は、日本におけるペスタロッチー研究の中心であり、その精神は今も生きている。この附属中・高等学校の中にもだ。生徒と教師との信頼関係があるから、生徒の「自由・自主・自律」による教育が成り立つ。当たり前のようでなかなかできないことだ。

 赴任して以来、なぜこの地にこの精神が生き続けたのかと考えている。平和都市広島と、求めるものが通底するのかもしれない。二度と原爆が投下されることのない平和な世界を求めることは、その根本において、人と人を結びつける愛や信頼を育むことと一致する。それは、ペスタロッチーの教育愛の精神と連なるものである。今また教育愛を、この地に広げていきたい気持ちになる。どんな子供でも信じ切る愛、信頼、尊敬をもう一度学校に広めること、それを学都広島ルネサンスとして、広島の地を盛り上げたいと思っている。(広島大学教授)

(2021年5月7日中国新聞セレクト掲載)

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