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連載・特集

高校人国記 県立広島商業高校(広島市中区) <5> 部活での学び 事業に生かす

諦めずに挑戦する姿勢 培った

珠算や簿記 恵まれた環境に感謝

 山坂哲郎(65)は海外の自動車や二輪車を輸入販売するバルコム(広島市)の会長兼社長。父親が創業した同社に入社した時20人だった従業員は現在、グループ全体で976人、売り上げは405億円。不動産業や飲食店などの新規事業で多角化も進め、売り上げ千億円の目標を掲げる。

 中学3年の時、広商の野球部監督迫田穆成(よしあき)(前出)から再三勧誘され同校へ。1年の時の厳しい練習は「人生で最もつらかった」という。そんな練習を耐え抜いた経験は自信となり、その後の人生の糧となった。3年の夏、野球への挑戦が終わると1日16時間の猛勉強。広商野球部で初めて広島大へ現役合格した。

 卒業後、営業を学ぶため広島マツダへ入社。3年目に年間117台を販売しトップセールスマンに。バルコム入社とともに広島大野球部監督も兼ね、リーグ優勝も2度。そんな人生を回想し「広商で培った、決して諦めずに挑戦する姿勢のおかげです」。

 家業を継ぐ。起業する。大企業に入社する―。商業高校なので、経済界に進んだ卒業生は多い。自動車輸入販売のコンクエスト社長で介護事業も展開する浜中清次(63)は、野球部のOB会「広商野球クラブ」会長。「甲子園へ行きたい」の一念で、住所を岩国市から広商に近い母の実家へ移し入学した。1年秋からレギュラー。2年の1973(昭和48)年春、甲子園大会で準優勝し夏は全国優勝。翌年春も出場した。

 「朝、星を見ながら登校し、夜、星を見ながら下校した」「真冬で雪がちらつく中、はだしに素手でノックを受けた」。そんな練習に耐えて今があると言う。昨年は孫の清水真翔(まなと)(19)も母校の部員として甲子園に出場した。大企業に進んだ同窓生には草川毅(78)がいる。高校を卒業し野村証券に入社。同証券系の高木証券社長を10年務めた。

 公認会計士仁井ゆかり(41)は珠算部出身。練習の厳しさは野球部並みで「朝と夜の練習に加え年間の休みは年末年始だけ。部活漬けでした」。努力は実って珠算の全国大会で団体優勝。「結果は、自分自身がどれだけ練習したかに尽きるということを教わりました」。関西大へ進み2年からは専門学校にも通って勉強。在学中に公認会計士の試験に合格した。

 現在は投資ファンド「日本協創投資」(東京都)のファンドマネジャー。後継者不在の中小企業や急成長し組織が大きくなり過ぎた会社などで、経営者の右腕となって支援している。珠算によって数字に慣れ親しんでいた上、簿記を勉強できたことは公認会計士の受験で非常に有利だったといい、「高校時代の恵まれた環境にとても感謝しています」と話す。

 仁井と同級の石森仁美(41)はGO&DO篠原税理士法人(広島市)所属の税理士で母校広島修道大の非常勤講師。大学を卒業後、働きながら勉強を続け資格を取得した。高校時代は簿記部に所属。顧問の教師自身も勉強しながら指導したといい「すごい学校を卒業できて良かった」と振り返る。島本章生(56)は卓球部出身。推薦で卓球の強豪専修大へ進み司法書士の試験に合格。現在は広島市と岡山市に事務所を構え司法書士7人の法人の代表。主に企業の合併・買収(M&A)や再編に関わる。

 この他、政界には東広島市長を3期途中まで務めた蔵田義雄(68)がいる。野球部員だった沢村静雄(96)は「幻の甲子園大会」の経験者。41(同16)年、戦意高揚のため当時の文部省が開いた甲子園大会に投手として出場したが、正式の大会とはされなかった。原爆では両親を失った。

 120年の歴史を重ね、卒業生は2万8千人を超える。同窓会は本部の他、西広島、東広島、広島北、京浜、京阪神の5支部。現在は会長の坪内昭吉(58)や専務理事の越智健剛(53)が中心に運営する。かつて同窓会と広商野球クラブは野球部の屋内練習場を寄贈。山坂は5年間の同窓会長時代、寄付金を集めて母校を支援。浜中は野球部のため学校近くにある同社の中古車センター2階をトレーニング場に開放した。上野淳次(前出)も奨学金を寄付し続けるなど、卒業生は母校へさまざまな「恩返し」をしている=敬称略。(客員編集委員・冨沢佐一)

 <主な行事>原爆慰霊祭(毎年、校内で開かれる。原爆投下時、校舎は現在の広島市南区にあり全焼。生徒や教職員138人が犠牲となった)▽広商デパート(商業の基本を身に付けるため仕入れから宣伝、販売、会計まで全校生徒が担う販売体験学習。新商品の開発も行う。82年から毎年12月に2日間開かれ、家族や地域住民でにぎわう)

 <部活動>硬式野球部の他、バスケットボール部や卓球、珠算、商業研究部などが全国大会の常連。軟式野球、ソフトボール、陸上、弓道部も全国大会へ出場経験がある。珠算部は全国競技大会で17回団体優勝。バスケットボール部は全国優勝1回、陸上部員も高校総体や国体で優勝。商業研究部は全国の研究発表大会で文部科学大臣奨励賞、書道部は全国総合文化祭で特別賞を受賞したことがある。

(2020年11月27日朝刊掲載)

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