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社説・コラム

『想』 小泉崇(こいずみ・たかし) コロナ禍と核廃絶

 新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている。ビル・ゲイツ氏は当初から「100年に1度のパンデミック」と指摘していた。「終末時計」(原子力科学者会報)は、今年も人類による地球破壊までの残り時間を最短の100秒とした。その理由として、コロナウイルスのパンデミック、核戦争、気候変動の三つの脅威を挙げている。人類の生存を脅かす脅威はすぐそこに迫っているのだ。

 人類社会はコロナウイルスと気候変動の脅威に対しては難儀しながらも闘っている。一方、核戦争はどうか。核兵器は人間自身が造り出したものであるが故に、人間自身が決めれば、生かすも殺すもできる代物である。しかしながら、核保有国を中心に「核抑止論」に執着し、核兵器を手放そうとはしない。

 一つの歴史的事実がある。1986年11月、レイキャビクでのレーガンとゴルバチョフによる米ソ首脳会談において、両首脳は「全ての核兵器の廃絶」を一旦(いったん)合意したのだ。その後米国の戦略防衛構想(SDI)を巡る意見の対立から最終的な合意には至らなかった。それでもこの時を境に、米ソ間での核軍縮は進み、翌年には中距離核戦力(INF)全廃条約が成立(一昨年失効)。世界で一時は約7万発あった核弾頭は今や1万3千発程度にまで減少した。両首脳の信念と両者間の信頼がもたらしたこの歴史的事実は重い。

 現状を見ると核兵器の近代化や小型化が進められ、むしろ核戦争の危険は増大しているとも見られている。今こそ世界の指導者に気付いてほしい。人類の生存を脅かす核兵器は廃絶すべきであると。

 この1月には核兵器禁止条約が発効したが、核保有国は加わっておらず、いまだ実効性は乏しい。条約はもちろん重要であるが、詰まるところ核廃絶を決着できるのは「人」であろう。われわれ市民社会は、第二のレーガン、ゴルバチョフが現れるのを待つのではなく、核廃絶に徹しうる指導者の輩出を促すため、豊かな平和文化の土壌造りに勤(いそ)しみたい。(公益財団法人広島平和文化センター理事長)

(2021年8月6日中国新聞セレクト掲載)

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