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社説・コラム

『想』 岩田美穂(いわた・みほ) 戦争から平和を学ぶ

 私と2人の息子の母校でもある広島市立本川小の平和資料館で、ボランティアガイドをしています。息子たちが小学生だったころ、保護者の一人として「お手伝い感覚」で始めた活動も今年で20年目を迎えました。

 私は被爆2世です。母は16歳で被爆し、両親と3人の妹を原爆に奪われ、たった一人生き残りました。これまでガイドを続けることができたのは、壮絶な人生を送った母が私を突き動かしてくれたからだと思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、現在資料館は入館者が減っていますが、普段は修学旅行生のほか、大人の団体、海外の教育関係者や各国の要人も多く訪れます。このためガイドには、戦争と被爆の史実に加え、世界各地の紛争や環境問題など、幅広い知識が求められます。

 当初は、戦争や原爆に関する知識が不十分でした。子どもたちの質問にきちんと答えられず何度も情けない思いをしました。しかしガイドを重ねる中で国際情勢にも関心を持つようになり、次第に「今ある平和は、努力して守らなければ未来永劫(えいごう)続くものではない」と危機感を抱くようになりました。

 そして、来館者に少しでも自分のこととして戦争や核兵器の恐ろしさを感じてもらうため、展示解説とともに、被爆前の母の家族写真を見せながら、母の体験も語るようになりました。これをきっかけに2006年に「いわたくんちのおばあちゃん」という絵本が出版され、小学校の国語の教科書にも掲載されるようになりました。

 ここ数年、広島市内や近郊の小中学校の平和学習に招かれ話しています。若い先生から「平和学習で子どもたちに何を話せばいいのか」と相談されることが少なくありません。私は、具体的・現実的に「戦時下」を想像し、考えることが必要だと感じています。「なぜ戦争が起こるのか」「戦争になるとどうなるのか」「自分だったらどうするか」を想像するのです。戦争は当たり前の日常を一瞬で奪うことを、亡き母の体験を通し、伝えていきたいと思います。(茶葉専門店「綿岡大雅園」店主)

(2021年8月5日中国新聞セレクト掲載)

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