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社説・コラム

『想』 高野菜々(こうの・なな) 意味を見つけるチカラ

 〈肝心なものは目には見えない、心で見なくちゃ物事はよく分からないんだ〉。世界的ベストセラー小説「星の王子さま」のなかでキツネが話す一節だ。

 私は広島市の可部に生まれ、いとこ同士の中で一番末っ子。幼少期、親族みんなの前で歌や踊りを披露して褒められることが、とにかくうれしかった。案の定(?)、ほどなくして歌って踊ってのミュージカルの道を志すことになった。

 私の所属する音楽座ミュージカルは独自のミュージカルを創り続けている。作品群に先述の「星の王子さま」もある。創設者の故相川レイ子前代表は戦前生まれ。手掛けた作品には平和を強く願う思いが流れている。

 20歳になってすぐ「21C:マドモアゼル・モーツァルト」という作品の主人公を演じさせてもらった。モーツァルトが実は女性だった、音楽を作った理由は21世紀の戦場にいる少女へのメッセージだった―という時空を超えた物語。当時、前代表から「あなたは広島に生まれた意味がある」と言っていただいたのを覚えている。

 生まれたときから当たり前のように平和の象徴として原爆ドームがあり、「なぜ自分が広島に生まれたのか」なんて考えたことがなかった。いや、もしかしたら意味はないのかもしれない。けれども、大きな問いかけをいただいたことで自分自身のルーツを知り、ミッションができた。「広島出身者として舞台を通して平和を祈りたい」と。

 冒頭の〈肝心なものは目には見えない〉という一節について、「実は肝心なものなんてない。しかし肝心でないものでも自分自身が肝心なものにするかどうかなのでは」と相川タロー代表からうかがい、ハッとした。「自分事にするチカラ、意味を見つけるチカラ」こそ生きていく上で必要であり、平和への第一歩なのではないかと思う。新型コロナの影響で地元に帰ることができなくなり、広島公演は中止になった。それにもきっと、意味がある。

 意味を探す旅は続く。肝心なものは、まだたくさんあるはずだ。(ミュージカル俳優)

(2021年7月29日中国新聞セレクト朝刊掲載)

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