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社説・コラム

『想』 岩本晋(いわもと・すすむ) ご存じですか ゆだ苑を

 山口市に活動歴50年以上となる被爆者支援の活動拠点があることをご存じですか。1968年創設の県原爆被爆者支援センターゆだ苑です。当初は温泉保養や休息ができる福祉会館として、さらに被爆者支援運動の推進と核兵器廃絶に向けた運動の拠点として整備されました。

 あれから半世紀経過した、今年1月に核禁止条約が国連で世界50カ国以上の批准で発効しました。条約には被爆者が核兵器廃絶に向けて努力してきたことを前文に核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移譲、使用、使用の威嚇などを、いかなる場合にも禁止するとしています。けれども、批准は核兵器を持っていない国ばかりで、この新条約の実効性は現在は乏しいとされています。それに、核廃絶の願いの先頭に立つはずの日本政府がこの条約の意義に反対し、核の傘が大事だというだけで、核保有国に同調する意見しか言わないからです。

 被爆時から、同じ思いをする人を増やしてはならないとの被爆者の強い願いを受け止め、新条約を生かすためには日本の態度を変えさせなければなりません。これまで以上に条約に関心を寄せ、内容を学習し、小さな個人の意見を積み重ねていくしか方法はないかもしれません。県内被爆者の平均年齢は84・7歳、若い人々に悲劇を語り継ぐ人も少なくなりました。被爆体験の継承が危ぶまれています。

 ゆだ苑の創設時代は思想的に分裂し原水爆反対運動が混乱状態に陥っていました。被爆地での騒乱を横目にしながら、山口では思想を超越する平和運動を推進しようと有志が団結して、県内各地で懸命な募金活動を展開しました。そして、全国に誇れるゆだ苑が完成しました。そこはイデオロギーや宗教、思想などの違いを乗り越え、被爆者支援および平和を求める人々の活動への取り組みであり、当時「山口方式」と呼ばれ、全国の注目を集めました。この山口方式の理念は、現在も「ゆだ苑」の組織運営理念・活動理念として継承されております。(山口県原爆被爆者支援センターゆだ苑理事長)

(2021年4月28日中国新聞セレクト掲載)

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