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社説・コラム

『想』 住岡健太(すみおか・けんた) 亡き父からのバトン

 私は現在、NPO法人PCV(ピース・カルチャー・ビレッジ)の一員として、広島を訪れる修学旅行生に対して、または広島県内の学校に出向いて平和学習の機会を提供しています。平和記念公園(広島市中区)を巡るツアーや、子ども同士でディスカッションを行う形式の授業を行っています。

 学生時代からの夢だった「先生」としての喜びを感じていますが、私がこの仕事に就いた理由には、亡き父の存在があります。

 父は教師で、59歳という若さでこの世を去りました。葬儀にはたくさんの教え子が駆け付け、小さな町に数キロにわたり、車の渋滞が起こりました。そして、参列者が次から次へと父への感謝を述べ、父の生きざまを私に伝えてくれました。その体験は「何をして生きるか」を見つめる機会となりました。当時私は、東京を拠点に企業経営に携わっていました。父の葬儀をきっかけに、広島へ戻って教育の道へと進むと決意したのです。

 実は、学生時代に「父のように教師になりたい」と伝えたことがあります。父は喜んでくれると思いましたが、返ってきた言葉は「教師になっても健太のやりたい教育はできない」でした。正直ショックでしたが、それから僕自身のやりたい教育とは? という問いを探究し続けました。そして、ある日気づきました。被爆3世であり幼い頃から祖母の被爆体験を聞き育った私にとって、理想の教育とは古里広島の想(おも)いを継承する「平和教育」でした。

 父の死をきっかけとする新たな人生は始まったばかりですが、2020年は3千名もの人たちのために平和学習を行うことができました。父の言葉は正しかった。確かに私のやりたい教育は、父と同じように教職に就いていたらできなかったかもしれません。しかし15年後、違う形ではありますが、父と同じように教壇に立っています。父からのバトンを引き継ぎ、故郷広島の思いを継承する「平和教育」をこれからも行い続けていく事が私の夢です。(NPO法人PCV専務理事)

(2021年2月17日中国新聞セレクト掲載)

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