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連載・特集

高校人国記 広島大学付属高校(広島市南区) <2> 放送や芸術分野 出会い糧に輝く

勉強や部活、文化祭に全力。今を生きること学んだ

桁違いに頭のいい人が何人も。自分を見つめ音楽の道へ

 昨年6月、テレビ朝日の人事異動が大きな話題となった。大下容子(50)が役員待遇のエグゼクティブアナウンサーに昇進したのだ。同局の現役アナでは初めて。2019(平成31)年には長年司会を務めてきた昼の情報番組が、自身の名を冠した「大下容子 ワイド!スクランブル」に。柔らかな語り口、安定感…。同局の顔である。

 高校時代は勉強や部活のバレーボール、文化祭、体育祭と目の前のことに全力で取り組んだ。文化祭ではガールズバンドを組んで演奏した。そんな毎日を振り返り「今を生きることを学んだ気がします」。慶応大を卒業し同局に入った。

 「番組に名前が付くと聞いた時には驚き重荷に感じました。でも先輩、後輩、社内外の女性がとても喜んでくれた。それが自分の喜び。自分自身は何も変わっていない。目の前のことに全力で取り組むだけです」

 マスコミや文化、芸能界に卒業生は多い。勝丸恭子(40)は横浜国立大を卒業。民間放送局を経て10(同22)年からNHK広島放送局で気象キャスターを務める。「この仕事に出合うまで相当回り道をしたけど、回り道で経験したことが全て今に役立っています」。高校時代で印象深いのは体育祭。「学校全体が1年がかりで準備を進める力の入れよう。大掛かりなものを成功させる努力や苦労、みんなで一つの物を作り上げる楽しさと感動は宝物といえる経験でした」

 マスコミには元テレビ朝日プロデューサー皇(すめらぎ)達也(79)や広島ホームテレビアナウンサー坪山奏子(37)もいる。

 作曲家で東京音楽大教授の糀場(こうじば)富美子(68)は幼時から習ってきたピアノを高校1年の間やめた。親の期待もあって勉強に専念したのだ。だが周囲には「桁違いに頭のいい人」が何人も。「このまま好きな数学をやっても芽が出ないのでは」と迷った時、声を掛けてくれた人がいた。小学1年からソルフェージュ(読譜や聴音などの基礎)を学んだ戸田繁子だ。「あなた音楽をやった方がいいよ」

 東京芸術大へ進み作曲家に。27歳の時の作品を改訂した「広島レクイエム」は世界的指揮者バーンスタインが開いた「広島平和コンサート」で演奏され、一躍注目を集めた。毎年8月6日の灯籠流しで被爆の惨状を聞いて心に抱いていた慰霊の気持ち。それをやっと作品にすることができたのは戸田の「何か広島をテーマに作曲したら」の言葉だった。「私は広島に育てていただいたのです」

 昭和音楽大教授で「日本のオペラ年鑑」編さん委員長の石田麻子(55)は舞台芸術の運営や人材育成を研究。19年にはオペラなどの上演を90本見たという。音楽界では他に作曲家横山潤子(60)や音楽社会学者井手口彰典(42)、ウッドベース奏者吉野弘志(66)、日本のトップクラスの合唱団「東京オペラシンガーズ」代表寺本知生(66)たち大勢が活躍している。

 映画界にはプロデューサー天野和人(60)や映画監督信友直子(59)、同長谷川和彦(75)がいる。天野は高校時代、8ミリ映画づくりに参加。アルバイトで映画館のPR冊子に映画の紹介も書いた。文化祭で上映された鈴木清順監督作品「けんかえれじい」を見て「こんな映画があるのか」と思ったのが映画との本格的な出会いだった。

 早稲田大を卒業し東映に。呉市を舞台にした「孤狼(ころう)の血」をはじめ数々の映画でプロデューサーを務めた。後輩へは「人生は思い通りにならない、だから面白い。まあ何とかなる。そして歌の文句ではないが『人生はあなたが思うほど悪くない』」。

 信友は東京大を卒業。コピーライターを経てテレビディレクターに。18(同30)年、認知症の母と老老介護する父を自ら撮影した映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は大きな反響を得た。その経験を通して感じたことを現在、本紙くらし面で「認知症からの贈り物」と題して連載している。

 高校2年の時、現代国語の宿題で書いた小説に対し文豪の風貌の教師から「書ける人だと思った。将来が楽しみだ」との講評。うれしくて「将来は文章を書く表現者になろうと初めて思った」と回想する。19年には母校で講演。ある女性記者との出会いからドキュメンタリー制作という「天職」と出合った経験を語り「チャンスに出合った時ちゃんとつかむ勇気と覚悟、これがチャンスだと気づく感性を持ってほしい」と呼び掛けた。=敬称略(客員編集委員・冨沢佐一)

 〈かつての卒業生=学術・文化・マスコミ〉中井正一(1900~52年)美学者。評論家▽紙恭輔(02~81年)作曲家。指揮者。戦後のジャズ・ブームの草分け▽原民喜(05~51年)詩人。小説家。被爆体験に基づく小説「夏の花」など▽阿川弘之(20~2015年)小説家。代表作に「春の城」「雲の墓標」。文化勲章を受章。広島県名誉県民▽橋川文三(1922~83年)政治思想史研究者。評論家▽新延輝雄(22~2012年)洋画家。日展評議員▽松元寛(1924~2003年)英米文学者。広島大名誉教授▽広中俊雄(1926~2014年)法学者。東北大名誉教授▽山本治朗(1948~2019年)中国新聞社社主兼会長▽頼近美津子(1955~2009年)NHK、フジテレビアナウンサー。

(2021年2月5日中国新聞セレクト掲載)

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