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社説・コラム

『想』 安彦恵里香(あびこ・えりか) つくりつなげ続ける

 森が燃える中、くちばしで水のしずくを1滴ずつ運んでは火の上に落とし続けたハチドリのお話。店名はこの南米アンデスに伝わる民話「ハチドリのひとしずく」から頂いている。

 戦争、飢餓、貧困、差別、環境破壊、気候変動…社会で起こる悲しい出来事に胸を痛めても「自分には関係のないこと」にしてきた過去の私。ある時、その姿勢では問題が解決しないどころか、加担すらしているのではないか?と気づく。それは社会問題の当事者に出会ったことがきっかけだった。

 出会うことで遠くの問題を近くに感じ、すぐに解決できる力はないけれど、せめて無視はせず、少しでも何ができるかを考えたい。そんな気持ちを共有し、真面目に社会問題を語る場が欲しいと2017年7月、広島市中区の平和記念公園から徒歩5分の場所にカフェ「ハチドリ舎」をオープンした。

 カフェでは社会問題をテーマにお話会や上映会などのイベントを月に30ほど開催し、学び語り合っている。企画づくりで大切にしていることは二つ。

 一つは「差を埋める」こと。セクシュアルマイノリティーや虐待被害者、障がいを持つ人や被爆者たちとの対話の場をつくっている。普段は出会う機会の少ない人を知ることで優しくなれる、そんな優しい社会に私も生きたいと願うからだ。

 もう一つは「数より質」。多くの方はイベントの良しあしを参加者数で計る。でも私は、人がつながり、学びを分かち合えば、参加者が2、3人だったとしても成功だと思っている。

 オープンから3年余り。大小千を超える場をつくってきた。たくさんの人がつながり、大きな気づきを得たり、独りじゃないと気付けたり。良い循環が起きてきたと実感している。

 コロナ禍で営業時間の短縮と利用人数の制限はしたけれど、店は閉めなかった。家に居場所がない人、行き場のない人がいると思ったから。誰かが助かること、喜んでくれることが私の幸せ。このカフェを安心、安全な場として長く続けることが私の目標だ。(ハチドリ舎店主)

(2020年11月26日中国新聞セレクト掲載)

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