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社説・コラム

『想』 栩野幸知(とちの・ゆきとも) これからの戦争映画

 俳優をやっています。近年先輩諸氏が次々と鬼籍に入られ業界内でも高齢者になったせいでしょうか、若い監督さんたちからチョット前の時代を描く作品の相談役やアドバイザーみたいなことを頼まれる機会が増えました。父が海軍将校だったので子供の頃から軍隊の話もよく聞いていましたし、元来ミリタリーマニアで歴史も好きなので戦争について問われれば分かる範囲のことはお教えしています。

 考えてみると学校の日本史の授業でも、日本書紀や万葉集の時代から江戸時代までは一通り習うのですが明治を越して昭和の時代の歴史ってほとんど習わないですね。今戦争のことを真面目に勉強しようとすると映画を見るのが一番手っ取り早いようで、これまでは体験者に見せていた戦争映画もこれからは過去の出来事、一種の時代劇として描かれる時代になりました。

 広島の原爆も語り部の方が減って、これからは「戦争を知らない大人が戦争を知らない子どもに戦争のことを教える時代」になりました。だから改めて日本の歴史における戦争を考え直して、日本人としてのプライドや自信を持てる教育をしていただきたいと思うのです。ボクのスタンスとしては、あったままの事実を(映画で)あったまま若い人にお見せして「良いか悪いかは自分で決めてもらう」って時代なのだと思います…。

 われら年寄りだって実体験は無いのだから、上から目線で押し付けるのではなく「君たちと一緒に考えて勉強しよう」で良いのじゃないかと思うのですね…。映画って一種の疑似体験でもありますからね。広島のあの夏を描いた「この世界の片隅に」には声優として出演し、広島弁指導をしました。この夏に公開予定の「海辺の映画館キネマの玉手箱」「おかあさんの被爆ピアノ」にも関わらせてもらい広島出身の映画人としての使命も改めて痛感しております。

 「もう少し長生きして若い連中に煙たがられる存在でいたいなぁ」とも思っている今日この頃です。どこかの映画のクレジットで見掛けたらよろしくお願いしますね。(俳優)

(2020年7月15日中国新聞セレクト掲載)

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