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社説・コラム

『想』 天野夏美(あまの・なつみ) 優しさの継承

 私は幼いころ祖父から何度も被爆直後の広島の様子を聞かされました。その話の怖いこと怖いこと。もともと怖がりで、戦争や原爆の話は大嫌いな子でした。今でも苦手です。そんな私が原爆の話を書きました。

 物語のモデル、智津子さんの被爆体験を聞いたとき、胸をきゅうんと締めつけたのは、怖さや不安、ましてや恨みなんかではなく、切なくて温かい感情。「人には奪われても奪われても失わないものがある。それが愛情なんよ」と教わりました。

 この話を伝えたい―

 残酷で悲しい歴史を学び、優しさの大切さを。どんなにつらくてもつらくても、孤独でも、いつかは笑顔になれる日が来ることを信じて生き抜く強さを。

 あえて原爆の被害状況など大人の視点を除き、私のような怖がりさんでも読みやすい、悲しみの中にも優しさや希望が感じられるお話にしたつもりです。

 そんな祈りを込めた絵本「いわたくんちのおばあちゃん」(主婦の友社)は、たくさんの人たちの力を借りて、2006年8月6日に全国の本屋さんに並びました。戦争の本のコーナーにあって、はまのゆか先生の優しい絵が目を引きました。

 09年に平和人権教育DVD(東映)としてアニメーション化され、文部科学省特選作品になりました。11年度の国語教科書(小4・三省堂、小5・東京書籍)に掲載されました。

 そして20年度、小6の国語教科書(東京書籍)に掲載されています。

 昨年、平和学習で絵本の朗読とお話をした時、「天野先生は原爆が落ちてきた時、ケガしませんでしたか? 大丈夫でしたか?」と、心配そうな顔をした女の子の質問に、絵本に込めた思いが届いていると実感してうれしくてたまりませんでした。

 「核」は人が作ったモノです。私には人間の醜い心の塊が「核」に思えます。名誉欲、虚栄心、優越感、憎しみ、自分に都合のいい正義…その破壊力のすさまじさ。

 みなさんの心の中に、「核爆弾」はありますか?(著述家)

(2020年6月7日中国新聞セレクト掲載)

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