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社説・コラム

『想』 塩屋俊一(しおや・しゅんいち) 陽はまた昇る

 去る3月31日に閣議決定された食料・農業・農村基本計画の前書きに「我が国が持続可能な活力ある地域経済社会を構築するためには、時代の変化を見通し、実態に合わなくなった制度やシステムを大胆に変革し、人材や資金を呼び込み、新技術を社会実装することにより、こうした変化に多彩に対応し、新たな成長につなげていくことが必要である」と記されている。

 まさにそれを各地域で具現化していこうとする矢先に、国難ともいえる新型コロナウイルス禍に席巻され、中国四国農政局の管内でも甚大な影響を被っている。収束が見えない中で、社会経済活動が制約され、何とか歯を食いしばりながら耐えている状況下で、どうすることもできない無力感にさいなまれる。

 2年前の夏、西日本豪雨災害でため池などの農業施設が大被害を受けた直後の広島の状況が気になり、プライベートで休暇を取り、広島市内およびその周辺を訪ねた。

 その際に、原爆ドームと資料館を拝見する機会を得たが、その時の衝撃は今も忘れられない。原爆ドームを世界文化遺産に認定した国連教育科学文化機関(ユネスコ)の憲章前文にある「平和は、人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」という一文が脳裏によみがえるのである。

 そして、被爆から目覚ましい復興を成し遂げた広島には、カープ球団への地域一体となった熱烈な支援に裏打ちされる、精神的連帯の気風が息づいていると痛感させられる。

 困苦、不安の先にある希望を信じて、ともに進んでいくことの尊さをあらためて教えられる思いである。

 この国難が収束した後には、いかなる社会情勢が待っているのか。新たな価値観も生まれてくるのかもしれない。そのような変化に多彩に対応し、新たな成長につなげていけるよう、地域の皆さま方と一緒になって考え、行動することを制約なくできる日が、一日も早く訪れることをひたすら願っている。

 陽(ひ)はまた昇るのである。(中国四国農政局長)

(2020年4月26日中国新聞セレクト掲載)

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