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連載・特集

高校人国記 比治山女子高校(広島市南区) <下> 文化やスポーツ 躍動する卒業生

自分の好きなことを見つけ経験重ねて

「良き人間であること」 仕事の上で最も大切

 水木祥子(42)は幼い頃から母に連れられて美術館を回り、大の美術好きになった。高校時代、「学芸員」という資格があるのを知って目標と決め、広島大を目指して朝晩、学校で英語や数学の補習を受けた。同大の大学院修了の時「めったにない」学芸員募集をひろしま美術館(広島市中区)がしたので、「奇跡的に」学芸員となった。

 学芸課長を務める今「研究成果を発表し、作品の魅力を伝えるという意味で、展覧会の企画はやりがいがある仕事です」。昨年の「ねこアート展」は古今東西の油彩画や日本画、版画、彫刻から猫をテーマにした作品を集めて多彩な表現を示し、3万3千人の入場者に喜んでもらった会心の作。「自分の好きなことを見つけ、いろいろな経験を重ねることが大切」とは後輩へ向けた言葉だ。

 美術や音楽、放送、スポーツなど多彩な分野で躍動する卒業生たち。ソプラノ歌手塩田美奈子(57)はオペラやオペラ作品を1人で演じるモノ・オペラ、「第九」などのソリスト、さらにミュージカル「オペラ座の怪人」に出演するなど意欲的に活動、多くの賞に輝いた。横浜市出身。父親の転勤で中学2年の時、広島へ移り、比治山女子高を卒業した。母校国立音楽大などで後進の指導も行っている。

 横山弘子(86)、久美子(58)親子はともに卒業生。弘子は母校へ教師として赴任し、1962(昭和37)年に中四国、九州で初となるバトン部を創設。その3年後に退職してバトン教室を開き、広島市内の高校から広く西日本へバトンを広めた。久美子も母校の中高や山陽女子高などのバトン部を指導。山陽女子高を3度、比治山女子中を2度、日本一に導いた。第3代校長国信玉三の訓話は忘れられないという。現在は日本バトン協会中国支部長。

 現代箏(そう)の演奏家榊記彌栄(きみえ)(73)は高校時代、マンドリンクラブに在籍。コンクールは「いつも参加賞」だったが練習後、みんなでお好み焼きを食べに行くなど楽しい思い出がいっぱい。卒業後、箏曲家沢井忠夫と出会ってこの道へ。しの笛やケーナとのコラボなどの試みもしてきた。「琴をひくことによって次々によい出会いが生まれた」と言い、「同級生もよく応援してくださった」と話す。

 玉田陽子(59)はパーソナリティーや司会、リポーターとしてテレビやラジオ、各種イベントに出演。新入社員研修の講師も務める。母校ではコミュニケーションをテーマに「女子力アップ講座」を開いた。中学と高校時代、放送部にいたのが〝原点〟。仕事を続ける上で最も大切だと感じるのは「良き人間であること」。それは第3代校長国信が訓話で繰り返し説いた「良き妻であれ、良き母であれ」に通じるのだと、今にして思うという。「多くの人との出会いに喜びを感じ」ながら前向きに生きる積極人間だ。

 フリータレント八谷しおり(26)は大学在学中の19歳から、中国放送の夕方の情報生番組「イマなまっ!」に出演。テレビやCM、雑誌などで活動をしている。中高では演劇部。みんなで作った作品で主役や演出を務めながら、登場人物をいかに演じたら最も輝くか―といった表現を追求してきた。自身の体験から後輩へは「好きなことに没頭してほしい」と話す。

 真部理子(まなべ・りこ)(27)は2014(平成26)年、ひろしまフラワーフェスティバルのフラワークイーンに選ばれ、17(同29)年、ミスユニバースの広島代表として日本大会に出場。現在はモデルやジムのパーソナルトレーナーをしている。父親の転勤で広島に移り、「セーラー服に憧れて」比治山女子中へ。高校卒業まで過ごした。学校で居残り勉強をし、帰宅のチャイムが鳴るとみんなで図書館に行って勉強するなど「女性だけで過ごした6年間はすごく濃かった」と言う。

 地元でタレント活動を続ける土手香那子(41)は03(同15)年、山本優(21)は今年、フラワークイーンに選ばれた。=敬称略(客員編集委員・冨沢佐一)

 <学校史から>原爆が投下された日の朝、校長国信玉三は前日までの強風がやんだことなどから空襲を予感。建物疎開に出動する予定の1、2年生約200人を軍命令を無視して学校に待機させ命を救った。だが3年生や教員など70人以上が犠牲になった。

 <かつての卒業生>岡ヨシエ(1931~2017年)比治山高女3年の時、軍の施設にいて原爆による広島壊滅の第一報を発信▽武藤まき子(1945~2016年)アナウンサー、芸能リポーターとして活躍

 <独特の設備>瞑想(めいそう)の森(校内の庭園。原爆慰霊碑がある)▽からまつ学寮(野外教育施設。三次市にある)▽フーコーの振り子(校舎内の吹き抜けにつるされた17メートルの振り子。地球の自転を実感できる)

(2019年12月27日中国新聞セレクト掲載)

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