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連載・特集

自民党総裁 岸田文雄 <中> ハトとタカ

改憲や核軍縮 折り合いは

公約 手綱さばきに注目

 穏健な政治路線で「ハト派」の代表格とされる岸田文雄が、昨今とかく勇ましい言動がもてはやされる自民党をどう変えていくのか。総裁としての最初の大仕事が、1日の党役員人事の発表だった。

 幹事長甘利明、総務会長福田達夫の起用とともに注目されたのが、政調会長に前総務相の高市早苗を充てたことだ。総裁選では前首相の安倍晋三(山口4区)が全面支援し、保守派の支持を受けて国会議員票は1回目の投票で岸田に次ぐ票を得た。決選投票で高市陣営は岸田支持に回った。

 党の政策立案や国政選挙の公約づくりを担う重要なポスト。「党政務調査会の前さばきなくしては国会への法案提出もままならない」と、政調会長経験者は解説する。

「全員野球」体現

 総裁選直後に「ノーサイド」を告げた岸田。併せて訴えた「全員野球」を体現するため、「タカ派」の高市を重要ポストに取り込んだとされる。

 就任記者会見で、憲法改正について高市は、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項などを盛り込んだ党の改憲案4項目に触れ、「党内で合意がしっかりできているものを打ち出していきたい」と述べた。4項目が示されたのは2018年。改憲を悲願とする安倍の第2次政権下だった。

 憲法9条の平和主義を重視してきた伝統派閥、宏池会(岸田派)を率いる岸田。だが総理総裁の座を目指す過程で、党是の改憲に前向きな姿勢を示してきた。

 そのスタンスがうかがえたのは総裁選の共同記者会見だ。「次期総裁としての任期中(3年間)に実現を目指したい。少なくともめどを付けたい」。戦後日本を形づくった憲法に手をつける覚悟を示した。

揺るがない使命

 一方で、揺るがないのが被爆国のリーダーとしての使命だ。

 国是である「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」の非核三原則について総裁選中、「堅持する」と断言した。対して高市は「尊重」と述べた。「米国の核の傘が機能する限り、核保有は考えていない」。状況次第では核武装も辞さないとも受け取れる。

 ことし8月6日、広島原爆の平和記念式典。岸田が総裁選立候補の腹を固める上で大きな出来事があった。

 首相の菅義偉があいさつで「核兵器の非人道性」などに触れる重要なくだりを読み飛ばした。被爆地の広島1区を地盤とし、核軍縮や被爆者救済に心を砕いてきた岸田には見過ごせない失態だった。「もう菅には任せられん」「先生が総理になるべきじゃ」。地元から強く背を押された。

 新役員の会見後、岸田は報道陣に問われた。改憲で「国防軍」保持の明記を主張すると訴える高市とどう折り合いをつけるのかと。「政治家だから信念があるのは当然。自分の思いを実現するのではなく、党内の意見を集約して党として打ち出すのが政調会長だ。個人の問題で考えるのは違う」と答えた。総裁としての手綱さばきが注目される。=敬称略(下久保聖司、中川雅晴)

(2021年10月2日朝刊掲載)

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