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社説・コラム

社説 入管対応に違憲判決 人権顧みぬ体質改めよ

 7年前、難民認定を求めたスリランカ人男性2人に裁判を受ける機会を与えないまま強制送還した入管当局の対応を、東京高裁は「違憲」と判断した。

 高裁は「憲法第32条で保障する裁判を受ける権利を侵害した」ときっぱり断じ、昨年の一審・東京地裁判決を変更し、原告に逆転勝訴を言い渡した。

 難民として保護を求めている人の権利をないがしろにした行為が、厳しく糾弾されたのは当然だろう。憲法に基づく人権の保障が、在留資格のない外国人にも及ぶことを明確に示した点でも大きな意義がある。

 政府は今回の違憲判決を重く受け止め、人権を顧みない入管行政の体質を転換させるため、抜本的な組織改革に取り組むべきだ。

 判決によると、原告の2人は2000年ごろに日本へ入国した。在留期間を過ぎて滞在し、国外退去処分となった。母国で迫害を恐れがあると難民認定を求めたが認められず、異議を申し立てた。14年12月に申し立ての棄却を告げられ、身柄を拘束された翌日にチャーター機で強制送還された。

 入管は送還の40日以上も前に異議の棄却を決めていたにもかかわらず、それを伏せて送還の準備を進めていた。告知後6カ月以内なら処分取り消しを求める裁判ができる。2人は提訴したい意向を入管職員に伝えたが、無視されたという。

 判決は「訴訟を起こす前に送還するため、あえて告知を遅らせた」と認定し、入管による脱法行為を厳しく批判した。

 国側は裁判で、2人が難民申請したのは日本に残りたいための方便だと主張したという。判決はしかし、「仮にそうだとしても、司法審査の機会を奪うことは許されない」と退けた。

 問題は、こうした入管の対応が今回の2人だけに対して取られたものではないことだ。

 チャーター機での国費による集団強制送還は年間数十人規模で行われている。誰を送還するかは入管当局の判断次第だ。効率を優先し、一定の人数を確保しようとするため、本来は強制送還すべきでない人が対象にされているとの批判が強い。

 同じく異議棄却の決定を40日後に告知され、翌日に送還されたケースについて、名古屋高裁は今年1月、違憲とまでは踏み込まなかったものの、公権力の違法な行使に当たるとして国に賠償を命じる判決を出した。

 今後は、「だまし討ち」のような同じやり方はできなくなり、入管の強制送還の在り方に影響を与える可能性もある。今回の違憲判決は当然と言えるが、入管による裁量乱用の歯止めとなることを期待したい。

 もちろん難民認定申請中は送還が停止される現行ルールを悪用する人もいよう。しかしわずか1%ほどの難民認定率は諸外国と比較して極めて低く、認定手続きも不透明だ。本来は保護されるべき人を、保護していない恐れが強い。

 根本的な問題は、在留資格のない外国人を何が何でも日本社会から排除しようとする入管の姿勢にある。今年3月、名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性が死亡した事件をはじめ、送還や収容を巡って人権侵害が後を絶たない。排除から共生へ軸足を移さなければ、人権大国とはとても名乗れまい。

(2021年10月2日朝刊掲載)

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