×

社説・コラム

『想』 姜暁艶(ジャンショウイェン) 二胡に託す平和の願い

 私は22年前、広島大医学部客員研究員として来日しました。その広島は来年、被爆75年になります。あの日、広島市では、人類史上初の原子爆弾投下で多くの市民が命を落としました。今も後遺症で苦しむ被爆者もおられます。生き残った人たちは、深い悲しみを乗り越え、復興に当たり、広島市は「平和の象徴」として世界に知られる平和都市になりました。

 私は、原爆で亡くなった弟を背負って唇をぐっとかみしめる「焼き場に立つ少年」の写真を見るたびに胸が痛くなりました。そして、今の自分に何ができるかを問うてきました。

 その答えとして、幼い頃から親しんできた母国中国の伝統弦楽器「二胡(にこ)」で、平和への願いを発信することを決心しました。「シルクロードを経て、平和への願い」「慈しみの心・世界へ響け」をテーマに「平和コンサート」を開いてきました。

 2006年、米ニューヨークとシアトルでの原爆の日の式典に参加し、二胡を演奏しました。続けてロサンゼルス、ハワイでも平和コンサートを8回ほど開催しました。故平山郁夫画伯の原爆の絵「広島生変図」のイメージを基に、音楽家の宇崎竜童さんに作曲してもらった「ボレロ ヒロシマ」では、二胡の音色に平和への願いを乗せています。

 米国で、この「ボレロ ヒロシマ」を演奏した時、被爆地広島への関心がとても高いことを感じました。12年に広島市で開かれた核兵器廃絶の集いで二胡を演奏させてもらった時も、全国から8千人を超す人たちが集まり、その関心の高さに圧倒されました。それと同時に、改めて広島は「平和への願い」の発信基地だと実感しました。

 今年、日本は新元号「令和」になりました。来年は東京五輪・パラリンピックが開かれます。私も平山画伯の絵のように国を超え、言語を超え、ジャンルを超えた音楽を、令和に込められた「beautiful harmony=美しい調和」で、広島から発信し続けていきたいと思います。(二胡奏者・医学博士)

(2019年8月28日中国新聞セレクト掲載)

年別アーカイブ