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連載・特集

「がんす横丁」シリーズ 夢の盛り場―新天地界わいの思い出― (二十五)ユニバーサル時代

文・薄田太郎 絵・福井芳郎

 広島での最初モノづくしとなると、音楽間奏を番組にしたのも、帝国館がはじめてであった。大正五年(一九一六年)頃からのこの映画館には、里見凌洋、有馬霞暁の新進が登場し、洋物セン門館としてユニバーサルものが上映されヒロシマの人気をひとりざらいにした。

 映画の間にやるいわゆる間奏楽もこの館が先鞭(せんべん)をつけたもので、凌洋のピアノ、ろ畔のバイオリンで、長唄「勧進帳」「越後獅子」が舞台演奏されて、広島での最初の音楽カン賞記録を残している。なんと言っても、ピアノが珍しがられたころの話である。

 ここでは前述のようにユ社作品だけが上映され、古顔のファンには忘れられない思い出となった。即(すなわ)ち青い鳥印のブルバード映画には、マートル・ゴンザレスの「南方の判事」「虹晴れ」、エラ・ホールの「質屋の娘」、メリー・マクラレンの「毒流(靴)」、ロン・チャニー、モンロー・サルスベリーの「森の朝」、ドロシイ・フィリップスの「人形の家」、ハリー・ケリー、フート・ギブソン主演の西部劇、ルース・クリフォードのバターフライ映画(胡蝶印)、レッド・ソニザー映画(赤翼印)などの人情劇が好評であったのと同時に、ユ社独特の連続活劇が絶対的な人気を集めた。

 「名金」で知られたエデー・ポローの「怪漢ロロー」(とにかくこの主演者が、画面に現れただけで場内が拍手で沸いたものである。これは凌雨が拍手をすることが、ファンとしてのエチケットであるとせんどうしたセイもある)先頃エロール・フリンが演じた拳闘選手権保持者ジェームス・ジェー・コールベット自演の「深夜の人」、ハリー・カーターの「灰色の幽レイ」、マリー・ウォルカンプの「龍の網」、エルモ・リンカーンの「怪力エルモ」「ターザン」、アート・アコードの「月光の騎手」、その他「電話の声」「幽レイ船」「紫の覆面」などが上映され、毎週連続モノ四巻を凌雨、凌洋、ろ畔、霞暁の四人が一巻ずつを担当して、それぞれによいところを聞かせたものである。チャップリン夫人として知られたミルドレッド・ハリスの悲劇モノ、青木つる子、早川雪洲主演モノもこの館で上映された。また、ウィルソン大統領の動静をうつしたユニバーサル週報や、ペン漫画で知られたスクリーン・マガジンの説明は誰よりも英語が読めた蕗の家凌雨の担当で、彼の啓蒙的解説は若い人たちにも受けて、凌雨後援会が出来(でき)たほどである。

(2016年1月10日中国新聞セレクト掲載)

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