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連載・特集

「がんす横丁」シリーズ 夢の盛り場―新天地界わいの思い出― (二十六)日本館と太陽館(その2)

文・薄田太郎 絵・福井芳郎

 日本館の完工は、太陽館よりは一足早かった筈(はず)であるが、小屋の仕組みはお粗末のようであった。それに松之助のムコウを張って沢村四郞五郞の天活忍術映画も、どうやら太陽館に喰(く)われたカタチであった。然(しか)し天然色の「西遊記」で、孫悟空のトリックなどは受けたようで、現代モノは新天地お目見得前の熊谷、伊村、久保田らの帝キネ新派で「須磨の仇(かたき)討」は大好評であった。のちに本格映画と言われる青山杉作、吾妻光子の「生の輝き」「深山の乙女」、井上正夫、水谷八重子の「寒椿」なども、この館のスクリーンを飾った。

 また筆者の子供時代、最も印象の強かった連続モノと言えば「名金」がある。「名金」ごっこという、半分にされたメダルを奪い合うというよくない遊びが流行したのは、この映画の影響で、主演のグレース・カーナード、エデー・ポローなどと、はっきりその名を覚えているなど、今日のプロ野球選手の背番号を知っているのに匹敵する。これにつづいて「金剛星」「ミラの秘密」「護(まも)る影」、黒装束の女探偵「プロテア」、曲馬団を扱った伊太利モノ、「死の騎手」「天空馬」、さては「新馬鹿大将」「ハムとチビ」、デブ公、チェスター・コンクリン、ベン・タービン、チャップリンの特作コメディが上映されたが、これという解説者の記憶はない。

 これと対立的な太陽館の洋モノでは「シビリゼーション」、アントニオ・モレノやルス・ローランドの連続物、重量級拳闘選手権保持者ジャック・デンプシイの「挙闘王」、改築のため東遊廊柳座での移動興行では、女流水泳選手アンネット・ケラーマンの「神の娘」、再建太陽館ではセダ・バラの「クレオパトラ」「シバの女王」、トーマス・ミーハンの「ミラクルマン」、ジョン・バリモアの「狂える悪魔」から、先頃ライフ誌で見られたロイド、キートンものが上映され、主任ベン士立田奇二が、大きなシャッポという言葉をはやらせて女性ファンの人気を集めた。

 その後、三村珍文の喜劇モノ、中村来恩の正劇はそれぞれに好評で、更(さら)にのち竹田清一が主任になって解説陣を完ペキなものにした。なお大正活映がモノにした谷崎ジュン一郎のオリジナル台本「アマチュア倶楽部」や小山内薫氏の作品で、のちの鈴木伝明が東郷是也として主演した「路上の霊魂」やチャップリンの「キッド」などはどうしたことか中島の世界館で封切りされた。

(2016年1月24日中国新聞セレクト掲載)

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