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社説・コラム

『想』 白井朝香(しらい・あさか) 海を渡る祈りの響き

 皆さまはシターという楽器をご存じでしょうか。

 旧約聖書にも登場するほどの長い歴史を持ち、神を賛美する歌や感謝の祈りの楽器としてフランスの修道院を中心に伝えられてきた宗教楽器です。私は日本では数少ないシターの奏者として平和都市広島を拠点に演奏活動を展開しております。デビューして5年、シターを知る人もやっと少しずつ増えてきたように思います。

 昨年は被爆70年の節目に広島で開催された国連軍縮会議や、平和首長会議といった平和関連行事で、数十カ国からの参加者にシターを聴いていただき、広島が世界平和を希求する想(おも)いを伝える機会を得ました。

 秋には宮島観光大使として、廿日市市と観光友好都市提携を結んでいるフランスの世界遺産モンサンミシェルに赴きました。宮島観光協会のプレゼンテーションと共に教会でコンサートを開き、厳島神社で奉納演奏した曲をモンサンミシェルに届けました。同じ時期にパリで開かれた広島フェアにも参加。フランス人による茶道のお点前と日本人の演奏するフランスの伝統楽器シターによる共演は、異国ならではの得難い経験でした。

 音楽を通じた国際親善のお役に立てたかなと、喜びのうちに帰国した直後、パリで同時多発テロが起きました。衝撃と悲しみにしばらく言葉を失い、無力感にさいなまれました。

 しかしそんな私を救ってくれたのもやはり音楽でした。演奏を聴いた人々がかけてくれた「シターの音色は心を平和にする。安らかな気持ちになる」という言葉は、私に勇気を与え信念を持たせてくれました。

 昨年、渡仏記念にリリースしたCD「海を渡る祈りの響き」には、言葉や宗教を超えて恒久平和を祈る心に、優しく寄り添う祈りの曲を収録しています。

 厳島神社、原爆ドームが世界遺産登録20年を迎える今年。聴く人の心に平安をもたらすシターの音色は、広島から平和のメッセージを発信する一助を担うものと信じ、広めてゆきたいと思います。(シター奏者)

(2016年1月20日中国新聞セレクト掲載)

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