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社説・コラム

『想』 森滝春子(もりたき・はるこ) 核被害者フォーラム

 なんと立派な青年に成長してくれたことだろう。昨年11月下旬、広島市中区で開いた「世界核被害者フォーラム」。インド東部ジャルカンド州ジャドゴダのアシッシ・ビルリさん(24)に再会し、喜びをかみしめた。

 出会いは2002年。インド、パキスタンの青少年との平和交流で、広島に招いた一人が彼だった。今ではフォトジャーナリストとして、ウラン鉱山を抱える古里の苦境を発信している。今回は放射性物質に汚染された現地の実情を語ってくれた。「少年時代の広島訪問が人生の転機になった」とうれしい言葉も聞かせてくれた。

 私は、01年に初めてジャドゴダを訪ね、ショックを受けた。住民は素手、素足で鉱山労働に従事していた。集落には鉱山の廃棄物が野積みされ、廃液を流し込んだ池もあった。人びとの体はむしばまれ、子どもたちも先天性障害や白血病に苦しめられていた。

 フォーラムでは、そんな現実を伝えたかった。原爆、核実験、劣化ウラン弾、原発など、核被害にさまざまな角度から迫ったつもりだ。海外ゲスト17人をはじめ、広島や長崎の被爆者、福島第1原発事故の被災者、核問題の専門家たち総勢55人に登壇してもらった。

 構想は4年以上前からあり、広島、長崎の市民による実行委員会により実現した。父森滝市郎たちは旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の翌1987年、米ニューヨークで「世界核被害者大会」を開いている。私たちもフクシマに直面し、「核時代を断たねば人類に未来はない」と、思いを強めた。世界から注目される節目の年に、被爆地から声を上げたかった。

 互いに顔を合わせて対話する場を、また設けたい。海外ゲストが「被害者は自分たちだけではないと知り、力をもらった」と一様に明るい表情を見せてくれたからだ。この認識を、広島の私たちも胸に刻みたい。世界の核被害に目を向け、ヒバクシャと手を取り合うことこそ、核時代を終わらせる一歩になるはずだ。(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会共同代表)

(2016年1月15日中国新聞セレクト掲載)

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