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社説・コラム

『想』 行安稔(ゆきやす・みのる) ワインと向き合う

 「日本ワイン」という言葉を耳にしたことはありますか。海外原料を使わず、国内原料のみで醸造したワインのことです。

 「せらワイナリー」で私たちは2005年秋から醸造を開始しました。当時、広島県世羅町ではブドウ栽培はほとんど行われておらず、植栽からスタート。農業振興も目的とし、自社農園は持たずに、契約生産者と手を携え歩み始めました。

 開園当初は世羅町産原料が少ないため、他産地からの購入で対応しつつ、開園後も生産者を募りました。世羅町産ブドウ100%で造れるようになったのは約5年後。地域の特産品としての目標を達成した瞬間です。その後、日本ワインという言葉が広まったのは追い風でした。

 この先、特産品としての認知度を上げ、製造を安定させるためには、醸造技術の向上はもちろんブドウの品質向上が欠かせません。ブドウだけで造るワインの品質は、その出来に大きく左右されます。世羅の気候風土に合わせた栽培の中でさらなる品質向上を目指すため、圃場(ほじょう)を回り生産者と話すことに力を入れています。

 農業従事者の高齢化、担い手不足は全国的な課題で、世羅も例外ではありません。先駆者が努力して得た技術や経験は次世代に受け継がねばなりません。

 生産者とともに新たなブドウ栽培や取り組みにチャレンジし、生まれたワインを販売することで生産者へ還元するサイクルをつくることが、この地でのワイン造りの役目と思っています。農作物の加工品であるワインには、生産者の想(おも)いと努力がいっぱい詰まっています。地域農業と深く関わる大切さを、日本ワインという言葉が改めて再認識させてくれました。

 酒税法の規制緩和もあり、ここ数年、多くのワイナリーが設立されています。大小さまざまなワイナリーがそれぞれの特徴を生かし、栽培技術、醸造技術を切磋琢磨(せっさたくま)している中で、私たちはどんな道を進むのか。この地域を発信するワイン造りを継続するため、今日もワインと向き合います。(せらワイナリー醸造長)

(2018年2月11日中国新聞セレクト掲載)

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