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社説・コラム

『想』 森下洋子(もりした・ようこ) オバマさんの広島訪問

 絶対に見なきゃいけないと、テレビの生中継を見守りました。広島の人間として、原爆を経験した身内を持つ人間として。

 原爆投下から3年後、この地に生まれました。草木も生えないと言われた中、先人の方々の強い信念で復興を遂げた広島。緑豊かな平和記念公園(広島市中区)をオバマさんが訪れました。米国の現職大統領として初めて被爆地に。いろいろな意見があると思いますが、私としては、非常に勇気のある決断だったと感じています。

 約17分の演説。「私が生きているうちに達成できないかもしれない」と語りながらも、核兵器のない世界を目指す決意を示しました。人類が平和を祈り、強く願い、世界中の子どもたちに悲劇を繰り返してはならないと伝えていかないといけない―。そんな思いを新たにしました。

 母と祖母は広島で原爆に遭いました。祖母は大やけどをしましたが、恨み言一つ言わずに明るく強く、たくましく生きました。きっと「ああ、良かったね」と、オバマさんの訪問を喜んでいることでしょう。

 平和を祈ったり、人と人とが手を携え合うことに喜びを感じたり。祖母の生きざまを目の当たりにしてきて、私も常にこんなことを考えるようになりました。ことしで舞踊歴65年を迎えましたが、ただクラシックバレエを踊っているのでは意味がありません。舞台の上から、平和への祈りを発信しているのです。

 オバマさんの広島訪問は第一歩。ここから先が大切です。これから何をすべきか、大統領自身も考えなくてはいけないし、私たちも考えなければいけない。オバマさんも日本の政治家も頑張ってほしい。平和への思い、核なき世界への思いを深く心に刻み、引っ張ってほしい。

 私もバレエを通し、皆さんに喜びに満ちた気持ちになっていただき、平和を祈る気持ち、人を愛し支える気持ちを届け続けたいと思っています。(松山バレエ団団長・プリマバレリーナ)

(2016年6月17日中国新聞セレクト掲載)

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