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社説・コラム

『想』 金田幸三(かねだ・こうぞう) 音楽で平和を

 今年の夏から秋にかけて広島は暑く、そして熱かった。カープの優勝は街中を真っ赤に染めた。来広したオバマ米大統領が発信した「核兵器なき世界」へのメッセージは、世界の耳目を広島に集めた。オリンピックでは金藤理絵、山縣亮太両選手が活躍。新庄高野球部やサンフレッチェ広島の健闘…。スポーツ王国広島の復活を感じさせた。

 広島の芸術文化活動にとっても、地味ではあるが負けずに熱い夏だった。「ピース・アーチ・ひろしま」で広島交響楽団は、海外や東京から集まった演奏者とベートーベンの第9交響曲などを協演、人類の連帯を歌いあげた。原爆の日の前夜には、恒例となった平和の夕べコンサートで平和への想(おも)いを込めた。広響のキャッチフレーズ“Music for Peace~音楽で平和を~”にふさわしい活動だったと自負している。広響だけではない。「平和であることは楽しい」とのメッセージを掲げているNPO法人「音楽は平和を運ぶ」も、演奏会などで熱い想いを伝えた。

 広響は世界的なピアニスト、マルタ・アルゲリッチに平和音楽大使へ就任いただいている。被爆70年の昨年夏、東京・サントリーホールで天皇皇后両陛下のご臨席の下、彼女と協演したのがきっかけだった。「音楽には人を愛することを育み、人を傷つける気持ちをなえさせる力が宿っている」というのが彼女の信念で、目指すところは広響の心と同じである。彼女は音楽を通じて広島をサポートし続けるとのコメントも寄せている。

 平和という共通のテーマの下、演奏者と聴衆の心が一体となった時の感動―。オバマ大統領のメッセージにあるように「道義的な目覚めの地」広島からこの感動を世界へ発信し続けることこそ広響の使命なのだ。

 広島は平和活動の拠点として、さらなる貢献が期待されている。その第一歩として、さまざまな文化団体と有機的に連携し矢を束ねることを思っている。時間をかけてスポーツと文化豊かで、世界に誇れる街となるよう広響ともども汗をかきたい。(広島交響楽協会理事長)

(2016年11月2日中国新聞セレクト掲載)

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