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社説・コラム

『想』 市原則之(いちはら・のりゆき) コロナ禍とスポーツ

 新型コロナウイルスの影響で、スポーツ界も大きな打撃を受けた。東京五輪は1年延期され、ほとんどのスポーツも中止や延期で活動できない状況が続いた。そうした中、やっとプロ野球が6月19日に開幕。追随して他のスポーツも動き始めた。

 スポーツは不要不急の枠組みにはめられた。世界的に感染が拡大するにつれ、諦めの心境で、自粛を余儀なくされてきた。この数カ月間、スポーツが世の中から消え、社会の活力が失われたように感じられた。スポーツの潜在的な価値の大きさが再認識させられた。

 ロンドン五輪前年の2011年3月、東日本大震災が発生し、日本オリンピック委員会(JOC)専務理事だった私は岩手県大船渡市を訪れた。惨状を目の当たりにし「この状況でスポーツ活動なんて」と考え、各競技団体に活動自粛を要請した。その結果「日本は放射能汚染でスポーツができない状況」との風評が世界に流れ、ロンドン五輪組織委員会からJOCに「日本は参加できるのか」との問い合わせがあった。私は旅先のモロッコから急きょロンドンに飛び「五輪は史上最大で最強の選手団を送る」と約束した。

 そこで、各競技の活動自粛を解き、五輪候補選手を被災地へお見舞いに行かせた。すると多くの方から「しっかりと練習に励んで好成績を挙げ、私たちに夢と希望、生きる喜びを与えてほしい」と逆に激励を受けた。その結果、日本選手団は史上最多の37個のメダルを獲得。まさに、被災地のために勝ち取り、被災地の激励で取らせてもらったメダルだった。

 今後、新型コロナが収束に向かうのか、第2波、3波がやってくるのか。予測はつかない。世の中が窮状にある時こそスポーツを止めず、人々に活力や希望を与え続けなければいけない。選手は新生活様式を守り、競技団体はガイドラインを定めて選手、スタッフ、観客の感染防止に努め、新型コロナに立ち向かうことが肝要である。世界の人たちが英知を結集すれば、きっと乗り切れるはずだ。(広島山陽学園理事長)

(2020年7月23日中国新聞セレクト掲載)

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