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社説・コラム

『想』 永澤裕之(ながさわ・ひろゆき) 広島モノづくり物語

 広島には、ロングセラー商品やオンリーワンの製品を持つ企業が多い。そんな魅力的な企業を多数輩出している全国有数の地域だ。私は社史編さんやブランディング支援の仕事上、経営者から直接、商品や製品誕生のエピソードを拝聴する機会に恵まれている。そんな中で、広島のモノづくりに共通する背景があるとふと気づいた。それは広島独特の風土と歴史、そして人の心だ。それが他の地域とは異なるメードイン広島の源流だ。

 古代より広島は鉄や木材の資源供給地であり、最先端技術が集積する地であった。日本で最も初期の製鉄集団を生み、遣唐使船の多くが倉橋島で建造された。日清戦争時には大本営が置かれ、多くの技術と企業が生まれた。ここで重要なことは、生まれたのは技術だけではなく、誇り高い企業精神やモノづくり精神も培われたということだ。

 広島の創業者たちは、高い志と理念をベースに企業を発展させ、時が経ても創業時の思いを大切に受け継いできた。太平洋戦争で広島に原爆が投下され、すべてが灰じんに帰すも、残された企業家や、戦後に生まれた企業の創業者たちは、自社の発展だけではなく広島と日本の復興を第一に考え行動し、それを企業の理念の中核にすえた。

 社員もその思いを共有し、商品製品を心を込めて造った。そんな強い思いから生まれたモノだけに、多くの消費者・顧客から信頼され、必要とされ、愛された。創業の精神と企業の思いを頑(かたくな)に反映させたモノだけがブランドとして生き残ることができた。こうして多くのロングセラー、オンリーワン製品が広島の地から生まれ、今に至った。

 企業と社員が思いを共有し、誇りを持ってモノを造り続ける。誠心誠意、毎日毎日、黙々と。さまざまな思いを託して生まれた数々のモノたち。有名無名のいとおしいメードイン広島の商品・製品たち。その一つひとつには、きっと熱くすてきな物語があるに違いない。これからも広島の企業の歴史とモノづくりの物語を埋もれないよう発掘し、紹介していきたい。(凸版印刷企画プロデューサー)

(2017年12月22日中国新聞セレクト掲載)

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